●避けて通った
それからしばらく怪談を続けるうちに、予定の時間がやってきた。
「闇に魂を惹かれたフォロワーのみなさん。それではまた来週、怪奇と幻想の世界でお会いしましょう。よければチャンネルフォローと『いいね』ボタン、お願いしますね。ごきげんよう」
「ばいばーい」
配信終了と同時に、フォロワー数を即チェック。先週から3人増えて――999人。
(しゃあ! あとひとり!! あっとひーとりっ!!)
わたしは心の中でガッツポーズをキメた。
ウキウキしながら、配信に使ったスマホなどを片づけていると、ひかりが妙に照れた様子で話しかけてくる。
「ねえねえ、ヤミちゃん。このあとヒマ……?」
「ん、特に予定はないけれど」
「ホント!? やったらさ、ちょっと……カラオケしていかん?」
「へ?」
急に何を言い出すのかと思えば、そんなことか。
まあ……フリータイムの時間はまだ充分残ってるし、急いで帰ったところでべつだん用事があるわけでもないし。
「……そうね。それじゃあ、歌っていきましょうか」
「やった!」
またしても、ひかりの顔がにへーっとゆるむ。
そんな顔をされると、せっかくの美少女が台無しなのだけれど……なんとなく、わたしもつられて笑ってしまった。
ひかりの歌は予想よりはるかに上手だった。
これなら「歌ってみた」動画もイケるな、と頭の中にメモをする。
ハイテンションにはしゃぐひかりとは違って、わたしはあくまでもクールでミステリアスだった。
マイクを握ったのは、「ディバイン・ベルズ」(事務所に所属して音楽活動もしている)の曲を歌うときくらい。
まあ……ひかりのアンコールに応えて、アルバム全曲を二回ずつ歌ったけど、決して、はしゃいでいたわけではない。ないったらない。
カラオケボックスを出ると、ぼちぼち日が傾きかけていた。
「楽しかったねえ!」
ひかりは今日一番の笑顔になっている。
わたしの声はすっかりガビガビになっていたけれど、悪い気分ではなかった。
「そうね。また行きましょう。そういえば……ひかりの学校も、期末テスト金曜までよね。せっかく午前で終わりなんだから、お昼、待ち合わせて一緒に食べない? 配信の打ち合わせもしたいし」
「食べる! バーガー!!」
「OK。なら、時間とかはまた
「うん。ヤミちゃんもお疲れ。……あと、もし、あいつがまだおったらやけど……」
「……あいつ?」
少し遅れて、最初にひかりが言っていた悪霊のことだと気づく。わたしの部屋の窓にへばりついてる、ピンクの服の女……だっけ?
「ああ、それなら大丈夫よ。悪霊の相手なら慣れているもの。このミステリアス霊感美少女・夜神ヤミを、を誰だと思っているの?」
「そうやったね。よかった」
ひかりはようやく安心したふうに笑うと、その場ででわたしと別れ、軽い足取りでバス待ちの列へと歩いていった。
遠ざかる背中を、なんとなく見送っていると――ひかりが路上の何もない場所で、不自然に大回りするのが見えた。
まるで、見えないなにかを避けて通るみたいに。
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