◆別れた理由

 フォロワーのひとりが、友人の「MIKIミキ」さんに聞いたお話です。


 ある日、MIKIさんはデートに出かけました。

 彼氏とふたりで映画を見る予定です。


 最寄りの駅で彼氏と合流し、映画館にむかって歩き出したところで、MIKIさんはふと、気になる光景を目にしました。


 工事中のビルの前に、黄色いランドセルを背負った、小学一年生くらいの男の子が立っているのです。

 いったいどこを歩いてきたのか、運動靴が黒茶けた土でドロドロによごれているのが、やけに気になりました。

 おまけに、ビルのまわりには工事用の鉄の足場が組まれており、子供が近づくのは危険な状態でした。そもそも今日は日曜日で、学校はお休みのはずです。


「ねえ、あなた、ひとり? おうちの人は?」

 その子に歩み寄ったMIKIさんが、そう話しかけたとたん、突然、横から強く腕を引かれました。


 彼氏です。MIKIさんが驚くのにも構わず、そのまま彼女をぐいぐい引っ張って、その場を離れていきます。


「ちょっと、何するの?」

 MIKIさんが怒って腕を振り払うと、彼氏は青い顔をして言いました。


「君こそ何してるんだ。あの子、この世のものじゃなかったぞ。話しかけたりしちゃダメじゃないか」


 実は、MIKIさんの彼氏には、少しだけ霊感があるらしいのです。でもMIKIさんはそのことを信じていません。

 このときも、「せっかくのデートなのに、変なこと言って怖がらせようとするなんて……」と、不機嫌になっただけでした。


 なんだか気まずい雰囲気のまま目的地に着き、映画を見はじめました。

 正直、期待していたほど面白くはありません。

 MIKIさんは退屈を感じ、だんだん眠くなってきてしまいました。


 うとうとして、どれくらい経ったでしょうか。

 ふいに、右側にいる誰かに袖を引っぱられる感覚がしました。


「ねえねえねえ。ねえねえねえねえ。」


 小さなかすれ声で、MIKIさんを呼んでいます。

 MIKIさんは半分寝ぼけながら、「彼氏が起こそうとしてるんだな」と思いました。

 けれど映画はつまらないし、なにより、さっきの件で彼氏に腹を立てていました。そこでMIKIさんは、わざと無視して寝たふりを続けたのです。


 やがて映画が終わり、劇場が明るくなりました。

 うーんと大きく伸びをしたMIKIさんは、ふと右を見て驚きました。

 そちら側はすぐ壁になっていて、どこにも人が入る隙間などなかったからです。

 壁ぎわの床には、黒茶けたドロドロの土が、たくさんこびりついていました。


「……よかった」

 MIKIさんがポカンとしていると、左に座っていた彼氏が言いました。

「さっきの工事現場にいた男の子が、上映中、ずっとMIKIに話しかけてたんだ。見えてることがバレたらずっとつきまとわれてたんじゃないかな。MIKI、無視して正解だったよ」


 MIKIさんはそのときはじめて、彼氏の霊感が本物だったとわかりました。

 だけど……。


「気づいてたんなら、見てないで助けなさいよ!」


 MIKIさんが怒りに任せて彼氏をどつき回したせいでそのままケンカになり、結局、ふたりは別れてしまいましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る