◆怪談・ハリコさん

 二枚目のプリントアウトを読んでいる途中から、わたしは鳥肌がおさまらなくなっていた。


 なんだこれ。なんだこれ。


 ハリコさん。

 ガリガリにせた老婆のような姿。

 白塗りの厚化粧に、少女趣味の服装、髪型。

 割れた鏡。

 四階から身を投げたアイドル志望の女……。


 話がつながっている。

「窓にうつる影」「白いお婆さん」「廃墟の入り口」に「満員ベランダ」、そしてわたし自身の体験が、この「あるアイドルの話」を通じて一本の線になっている。


 これまで気がつかなかったのは、個々の話の中に、ところどころ情報の欠落があったからだ。

 たとえば、「窓にうつる影」に出てくる自殺者の霊には容姿の情報がなく、としか書かれていない。これをノーヒントで白塗りババアと結びつけるのは不可能だ。

 でも、今ならなわかる。

 これは全部、だ。正確に言うなら、ハリコさんというなんだ。


 ――あなたのところに、ばかりが集まってきたとき……あなたはすでに、呪われているのかもしれません!


 配信でそう言ったのは、わたし自身だ。

 あのときは冗談だったけど、今は笑えない。ぜんぜん笑えない。


 だって……この、何度も話に出てくる廃マンションっていうのは、つまり……つまり……!


「ヤミちゃん? どうかしたと?」


 ハッとして顔をあげると、ひかりが心配そうにわたしを見つめていた。


 咄嗟とっさに言葉が出ない。

 わたしがふるえる手で「あるアイドルの話」を突き出すと、ひかりは指で文面を追いながら読みはじめた。

 読んでいるうちに、その表情がどんどん不安そうにくもってゆく。


「これ……もしかして、ヤミちゃんちの窓におったやつ……?」

「え、ええ。そうみたい……」


 話すなら今だ。

 だけど私が口を開くよりも先に、ひかりが別の紙を二枚、こっちに差し出してきた。さっきまでひかりが読んでいたプリントアウトだ。


「こっちも読んでみて。なんか、この話と関係あるみたい……」

「なんですって?」


 わたしは紙をひったくる。一枚目には、こんな内容が書かれていた。



 * * *


 ヤミちゃん、この前はわたしのお話を紹介してくれてありがとうございました。

「白いお婆さん」のお話を送った「キララ」です。


 あのとき読んでいた怪談ブログがまだ残っていたので、URLを送ります。

 よかったらヤミちゃんも読んでみてください!


(ttps://kaidanhunter.answerblog.com/entry/2019/07/10/09/27928)


 * * *


 わたしは嫌な予感をおぼえながらスマホのブラウザを開き、そのURLを打ちこんでみた。

 出てきたのは「怪談ハンターが行く!」という個人ブログだ。



 * * *


 こんにちは! 怪談ハンター「ツヴァイ」です。

 今日は、神奈川県の中学校に伝わる、恐ろしい話を紹介しようと思います☆


 ――校区のはずれに、廃墟になったマンションがある。絶対に、遊び半分でそこに入ってはいけない。「ハリコさん」という幽霊に呪われてしまうからだ。

 ハリコさんに呪われたら、高いところから落ちて死ぬことになる。

 ハリコさんは鏡が嫌いだ。家にある鏡がひとりでに割れたら、ハリコさんに狙われている証拠。近いうちに、命を落とすことになる……。


 いかがでしたか?

 絶対逃げられないなんて、恐ろしい呪いですね!


 だけど、怪談ハンターは恐ろしいほど燃える! というわけで、問題のマンションに潜入して写真撮影してきちゃいました~。

 これはもう、ハリコさんがうちに来ちゃうかな?(笑)



 * * *


 ブログに掲載されていた画像を見た瞬間、わたしは自分の予想が当たっていたことを知った。


 そこに写っている建物に、見覚えがあったからだ。


 まるでコンクリートの棺桶みたいな、四角い建物。

 まわりはぼうぼうに伸びた雑草にかこまれており、真っ赤にびたフェンスに、立ち入り禁止の札がさがっている。


 見間違えるはずがない。そこは「飛び降りマンション」。

 わたしとひかりが初めて出会った、あの場所だった。


 他にも情報があるかもしれないと思って画面をスクロールさせてみたけれど、その先に続きはなかった。

「怪談ハンターが行く!」はその投稿を最後に、ぷっつり更新を停止していたのだ。




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(24/11/14)他投稿サイトと話数が合わないな?と思って確認してみたらエピソードごと抜けていたため追加しました。すみません(汗)

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