◆あるアイドルの話

忌鷲いまわし」さんの原稿を読み終えたわたしは、妙な既視感きしかんに襲われていた。


 ――? 


 つい最近も、同じキーワードにまつわる怪談を読んだおぼえがある。それも複数。

 もちろん、決して珍しい単語ではないから、偶然の一致ということも考えられるけど……。


 わたしは、わけもわからず叫びだしそうになる気持ちをグッと押し殺しながら、プリントアウトをめくった。

 そこに、この違和感のが記されていることなど、考えもしなかった。


 * * *

 ヤミちゃん。ひかりちゃん。はじめまして。

 私は小学五年生の「みおっち」です。

 いつも配信、楽しく聞いています。


 先週やったお話の中に、「ハリコさん」という幽霊の名前が出てきましたよね。それを聞いて思い出した話があるので、メールします。

 前に、私のお母さんが教えてくれた話です。


 私のお母さんは昔、アイドル志望でした。

 芸能事務所の研修生みたいなポジションで、テレビ出演目指して頑張っていたそうです。


 そのころ、お母さんと一緒に活動していたメンバーのひとりに、宇津木うつぎ真理子まりこさんという人がいました。

 いつもお姫様みたいに髪をくるくるに巻き、フリフリのついたドレスみたいな服を着ていました。

 顔はかわいかったけど……性格にはだいぶ問題のある人だったみたいです。


 仕事の内容が気に入らなかったり、自分より目立っている人が目についたりすると文句を言います。

 よく、「私は有名人の○○と知り合いだ」とか、「親戚にテレビ局の偉い人がいる」とか自慢話をしていましたが、彼女の言うことは、ほとんどウソばかりでした。


 お母さんによると、最初からそこまでひどい人だったわけではないそうです。

 なかなかアイドルとして芽が出なかったせいで、もっと注目されたい、められたいと思う気持ちばかり大きくなって、おかしくなっていったんじゃないかと言っていました。


 だけど、どんな理由があったとしても、そんな人と仕事したくはないですよね。

 むやみと外見を気にして、見栄ばかり張っている人だったので、お母さんたちは陰で彼女のことを「ハリコさん」と呼んでいました。

 本名の真理子マリコと、中身のからっぽな張子ハリコとらとをひっかけたのです。


 そんな調子だったので、真理子さんは周囲から孤立してしまい、結局、事務所をやめてしまいました。


 それから一年ほど経って、彼女が死んだといううわさが流れてきました。


 事務所を抜けてから、真理子さんは何の仕事にも就かず、引きこもり同然の暮らしをしていたようです。

 ストレスと栄養不足によって急激にせたせいで、真理子さんの肌はシワだらけになってしまいました。まだ二十代なのに、まるでお婆さんのような見た目です。

 そんな状態なのに顔にベタベタの厚化粧をし、フリルのたっぷりついたドレスを着て、意味不明なことをつぶやきながら外を歩き回るものだから、同じマンションの人からも怖がられていました。


 そしてある日、何の前触れもなく、四階の自分の部屋から身を投げて亡くなったのです。


 お母さんたちは真理子さんのことが大嫌いでしたが、その末路を聞いてなんだかかわいそうになり、せめてお葬式にだけは出席することにしました。


 真理子さんの家族はアイドル仲間がきてくれたことをたいそう喜びました。

 そしてお母さんたちに、「最後の記念として、娘の棺と一緒に写真を撮ってくれないか」と言いはじめました(娘も娘なら、お母さんのほうもちょっと変な人だったのかもしれませんね)。


 棺越しとはいえ、死んだ人と一緒に写るなんて気持ちが悪かったので、お母さんたちはみんな断ろうとしました。

 ただ、メンバーの中で一番優しくて人気者だった英梨えりさんという人だけは、そのお願いを聞いてあげることにしました。

 それで、棺に収まった真理子さんとツーショットを撮ったのです。


 その数日後。


 突然、英梨さんが死んでしまいました。

 自宅のマンションから飛び降りたのです。


 大きなイベントへの出演が決まって、これからというときでした。自殺する理由なんて、周囲の誰ひとりとして思い当たりませんでした。


 英梨さんの部屋に遺書は見つかりませんでしたが、洗面所の鏡が割れていて、壁に血文字でこんな一文が書かれていたそうです。


 ハ リコ さんがき た

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