◆バッテンマーク

「はなまる」さんが投稿してくれた怪談で、彼のお姉さんにまつわるお話です。


 はなまるさんのお姉さんには、不思議な特技がありました。家族のケガや病気を、予言することができるのです。


 たとえば、ある朝のこと。

 朝食を食べているとお姉さんがやってきて、「はなまる。左手、気をつけてね」と言います。なんのことだろうと思っていると、その日の放課後、はなまるさんはサッカーの練習中に転んで、左手の指を骨折してしまいました。


 また、こんなこともありました。

 家族で夕食中、お姉さんが、「お父さん、耳、変な感じしない? 病院行かなくて平気?」としきりに気にするのです。お父さんはそのとき、「なんともないよ」と面倒くさそうに聞き流していたのですが……それから数日後、突発性難聴なんちょうを発症して、病院に行くことになりました。


 不思議に思ったはなまるさんは、あるとき、お姉さんにたずねてみました。するとお姉さんはしばらく迷ったあと、こんなことを教えてくれました。


「たまに、人の手足とか顔とかに、黒いマジックで書いたようなバッテンマークが見えるの。そのときはただ見えるだけなんだけど……しばらくすると、必ずその場所をケガしたり、病気になったりするのよ」


 軽いケガなら、小さいバッテン。ひどいケガなら、大きいバッテンが見えるのだと言います。

 ただ、そんなことを聞かされても、はなまるさんはにわかには信じられません。からかわれているのかとも思いましたが……お姉さんの顔は、真剣そのものだったそうです。


 それから少しして、こんな事件が起こりました。

 ある日、お姉さんが高校に行くと、モモタ君という男子が、スミを塗りたくったような真っ黒な顔をしていたのです。


 モモタ君はイタズラ好きで、学校におかしなお面をかぶってきたり、心霊スポットで撮った写真を見せびらかしたりしていたので、お姉さんは、今回もそんな「おふざけ」のひとつだろうとしか思っていませんでした。


 ですが……妙なのです。

 真っ黒に塗られたモモタ君の顔を見ても、他のクラスメイトはおろか、先生たちですら何も言いません。お姉さんはだんだん、悪い予感がしはじめました。

 昼休みになったら、モモタ君をつかまえて話を聞いてみよう。

 そう、思っていたのですが……。


 モモタ君は、四時間目の移動教室の途中でフラッと姿を消したかと思うと、屋上から落ちて死んでしまいました。頭から落下したせいで、顔がぐしゃぐしゃにつぶれていたそうです。

 、お姉さんには、黒く塗りつぶしたように見えていたのではないでしょうか?


 * * *


「さて、続いてのお話は……あら?」

 次の原稿を手にとったわたしは、思わず首をかしげてしまった。


「廃墟の入り口」というその話は、昨日、自分でボツにしようと決めたはずの話だったのだ。

 他の原稿と一緒にならないよう、没原稿用のクリアファイルにはさんでおいたはずなんだけど……。


「ヤミちゃん、どうかした?」

「あ、ううん。なんでもないわ。読むわね」


(……まあいいか)

 ちょっと個人的な理由があってボツにはしたものの、話そのものは悪くない。

 わたしはそれ以上深く考えず、原稿を読みはじめた。

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