◆くびだけまじん

「闇に魂を惹かれたフォロワーのみなさん……こんばんは。夜神ヤミです」

「朝日奈ひかり、です」

「今週は『ヤミひかチャンネル・真夏の熱帯夜スペシャル』と題し、時間を変更してお送りしています。毎日、暑い日が続きますが、フォロワーのみなさんはいかがお過ごしですか? 折しも今週はお盆のシーズン。彼岸のモノたちが、もっとも活気づく季節です。くれぐれも異界のモノに魅入られぬよう、注意なさってくださいね。わたしとひかりも、今日だけで二度、この世ならざるものとの遭遇を経験しているくらいですから。……そうよね、ひかり?」

「……」

「ひかり?」

「え。あ……うん」


 ひかりは、さっきの会話の気まずい感じを引きずっているのか、心ここにあらずという感じだ。とはいえ……配信をはじめてしまった以上、このまま進めるしかない。


「『ちよこ冷凍』さんようこそ。『からくり人魚』さんもいらっしゃい。先週は怖い話をありがとう。『無為識むいしき』さんはお久しぶりかしら。お元気でしたか? 夏風邪と霊障にはお気をつけて……」


 昔からの常連フォロワーはだいたい名前とアイコンが一致しているけれど、最近ドバッと増えたフォロワーはまだ記憶が追っつかない。流れてゆくコメントをなるべく頭に刻みこむようにしながら、わたしは、愛用のバインダーを引っぱり寄せた。


「今週も霊感UMOVER『ヤミひか』が、みなさんに怪奇と幻想の物語をお送りします。今週のテーマは『夏休みの怪談』。最初は――そうですね、このお話にしましょうか」


 * * *


 いつも怖い話を投稿してくれるフォロワーの忌鷲いまわしさんが、職場の知人の伝手つてで聞いたというお話。


 体験者の方を、仮にコウくんとしておきましょう。

 彼が小学校三、四年生のとき。一学期の終業式の日に、図画工作で作った紙粘土の工作を持って帰ることになりました。

 それは小学生が作ったにしては、なかなかインパクトのある代物しろものでした。学校から与えられた粘土を全部使って、鬼瓦おにがわらのような、巨大な頭だけの怪物を作ったのです。

 コウくんはそれに「くびだけまじん」と名前をつけて気に入っていました。


 さて、くびだけまじんを持って帰る道すがら。

 コウくんは、いつも使っている通学路に立つ、石づくりの道祖神どうそじんに目を留めました。


 道祖神というのは、道に置かれた神様のことです。

 旅人の安全や村の境界を守るため道端に建てられている石像や、石をまつったほこら……そういうものをひっくるめて、道祖神と呼ぶわけですね。

 コウくんの通学路にある道祖神も、なんらかの神様をかたどった石像だったようです。ようです、というのは、自然に風化してそうなったのか、誰かのイタズラで失われたのかはわかりませんが、その道祖神には首がなかったからです。

 少なくともコウくんの知る限り、それは昔からずっと首なしの石像でした。


 いつもなら、そんな道祖神など気にせず素通りしてしまうコウくんですが……その日にかぎって、ふと道祖神の失われた頭部に目が留まりました。そして、少しばかりよくないことを思いついたのです。


 コウくんは、手に持っていた「くびだけまじん」を、切り株状になった道祖神の首の上に置いてみました。

 ぴったりとはいきませんが、なかなかサマになっています。くびだけまじんが、パーフェクトまじんに進化した――心の中でそんなふうに思うと、なんだかとても誇らしい気持ちになります。

 気をよくしたコウくんは、その雄姿を写真に残しておこうと思いました。

 そこで、くびだけまじんを載せた道祖神をそのままにして、いったん、家まで携帯電話を取りに行くことにしたのです。


 コウくんが、自宅に帰りついてみると。

 犬小屋の手前で、飼い犬のラッキーが死んでいました。

 ラッキーの首はコルク抜きのようにねじれ、血の泡をふいた口の中には、粉々に砕かれた紙粘土の破片が、ぎゅうぎゅうにつめこまれていたそうです。

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