◆偶然の一致

 フォロワーの「ママレード」さんが送ってくれたお話。


 当時大学生だったママレードさんは、友人Aさん・Bさん・Cさんと四人で怪談会をすることになりました。

 四人はそれぞれ怖い話を用意して、ママレードさんの家に集まります。


 まずママレードさんが「ネコをいじめた男の子が、次の日から、口からネコの毛玉そっくりな毛のかたまりを吐くようになった」という話をしました。


 続いてAさんが「脱水症状を起こして道端で亡くなった大学生の部屋を調べてみたら、クローゼットに閉じこめられて餓死したネコのミイラが何体も出てきた」いう話を語ります。


 偶然、ふたりとも「殺されたネコのたたり」にまつわる話を用意していたわけです。


 ママレードさんとAさんが「かぶっちゃったなあ」と笑っていると、浮かない顔のBさんがこんなことを言いだしました。

「実は……ぼくが用意してきたのも同じような話なんだよね」


 そう言ってBさんが話しはじめたのは、「ネコのお墓を踏んでしまった女性が、翌朝起きてみると、両足がネコのひっかき傷だらけになっていた」というお話でした。


 偶然にしても、ネコの話ばかり三つも続くなんて不自然です。

 薄気味が悪くなった三人が顔を見合わせていると、それまでジッと黙っていたCさんが、突然、立ち上がりました。


「おまえら、どういうつもりだよ。言いたいことがあるならハッキリ言えばいいだろ。え、誰に聞いた。誰に聞いたんだよ。おれは誰にも言わなかったのに……!」

 Cさんはひどく興奮しています。でもみんな、何の話だかさっぱりわかりません。


 みなが困惑していたそのとき、半開きになっていたドアから一匹の黒ネコがサーッと部屋に駆けこんできて、机の裏にスルリと入りこむのが見えました。


 ママレードさんはネコを飼ってなどいません。


 びっくりして机の裏を確かめてみましたが、ネコの姿はどこにもありませんでした。だけど、確かに全員が見たのです。


 突然、Cさんがウワーッと叫んで、家を飛び出していきました。


 ママレードさんたちがあわてて追いかけようとしたそのとき、家のすぐ前から、ドーンッというすさまじい音が聞こえてきました。


 道に飛び出したCさんが車にはねられた音でした。


 ――幸い、Cさんの命に別状はありませんでした。

 そして病院へお見舞いに行ったママレードさんに、Cさんは話してくれたのです。

 怪談回の前日、車を運転していて黒ネコをひき殺してしまったということを……。


 * * *


「『怪を語れば、怪至る』という言葉があります。不思議な話をすると、本当に不思議なことが起こるという意味です。似たような例は、枚挙まいきょいとまがありません。お化け屋敷には本物の霊が集まってきやすいとか、怪談本を書いていると原稿のデータがバグで消えてしまうとか……『白いお婆さん』も、どうやらこれに近いお話のようですね。そして……」

「そして?」

「『偶然の一致』はその逆……Cさんに取り憑いていたネコの霊が、同じネコの祟りにまつわる怪談を引き寄せてしまったというお話なのではないでしょうか。もしかしたら、本物の怪異と怪談とは、互いに引かれ合う性質があるのかもしれませんね」


 ……なんてね。思いつきでテキトーなことを言ってみるわたしである。


「あなたのところに、同じ怪談ばかりが集まってきたとき……あなたはすでに、呪われているのかもしれません!」

 カメラ目線を意識しつつ、クール&ミステリアスなポーズをビシッと決めると、コメントがワッと増えた。

 よしよし、ウケてるウケてる。

 気分をよくしたわたしは、そこから話題を展開させてみることにした。


「怪談を触媒にして、本物の怪異を呼びこむ儀式と言えば『百物語』が有名ですよね。百物語は江戸時代、庶民の間で非常に人気があったといいます。自宅で、誰でも手ごろに怪異に接することができるというのは、それだけ魅力的なことだったのでしょう」


 わたしが怪談配信のときに青いライトを使うのも、百物語のときに青い行燈あんどんを使ったという事実にちなんでいる。


「時代が下っても、同じようなお手軽降霊術は名を変え、形を変えながら行われ続けています。たとえば『こっくりさん』、『ひとりかくれんぼ』、『スクエア』……それから鏡と鏡が向き合ったときに生じる『合わせ鏡』にも、いろいろと不思議なお話がありますね」

「……?」


 ふいにひかりが声をあげたので、わたしは話を止めた。

「どうしたの、ひかり」

「えっと……」

 言いよどむ姿を見てピンとくる。

 ひかりがこういう反応をするのは、たいてい、何かよさげな話をときだ。


「何か思い出したんじゃない? 合わせ鏡にまつわる、怖い体験とか……」

「う、うん。……昔、合わせ鏡見とーみてるときに、変なことがあったっちゃんんだよ

 ビンゴ。やっぱりね。

「興味あるわね。聞かせてくれる?」

「……うん。よかよいいよ


 本当はこのあと別の怪談を用意していたんだけど、こうやって思いがけない話が飛びだすライブ感は、生配信の醍醐味だいごみだ。

 それに、ひかりの持ってくる話は数こそ少ないけれど、よくある怪談のパターンから外れた変なモノが多くて、おもしろい。


「あれはねえ……」

 ひかりは語りはじめた。

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