第6話 入学式前

 今日は学校の入学式。


 母様とシュヴィとは一度別れることとなり、自分の教室へと向かう。


 僕の入学試験の成績はトップで通過していたので、僕が新入生代表挨拶をすることに成っている。

 

 アリスも当然この学校に受かっていていて、かなりの高得点だったようだ。だけれど、次席という訳ではなかったようでとても悔しがっていた。


 新入生とか、在学生は僕が入学することを知らないだろうな。


 みんなが試験に集中できるように僕だけ日程をずらして試験を受けたから、僕がこの学校に入学しているなんて誰も思っていないみたいだ。


 先ほどから周りが僕の事をジィっと舐め回すように見ている視線を感じる。


「ゾーイ様、あいつらの眼玉をくりぬいてきましょうか?」

「いや、そんなことしなくて良いから。男の人が珍しくて見ちゃってるだけだよ」

「いえ、そんな甘いものではありません。あれは、完全に発情している豚の顔です」

「アリス?そんなこと言っちゃダメだよ」


 僕が優しく窘めるとアリスは渋々わかりましたと言ってはいるけれど、周囲に威嚇し続けている。


 アリスを窘めつつ、自分のクラスであるSクラスへと入る。


 やはり、僕が入ってきた瞬間クラスの中にあった喧騒は止んでしまって僕としては少し気まずい感じになって仕舞う。


 幸い、僕の隣の席はアリスのようなので良かった。相変わらず周囲を威嚇しているアリスと一緒に席へと座る。


 クラスのほとんどの人間は僕の方へと目を向けていて、こちらに興味津々のようだった。その中で一人、僕の方へと物怖じせず一直線で近づいてくる人がいた。


「ゾーイ様、どうしてこの学園に入学すると仰って下さらなかったのですか!!」

「あはは....すみません、ヴィクトリア様」

「もぅ、ゾーイ様がこの部屋に入ってきたとき物凄くびっくりしたんですから」


 とヴィクトリア様が僕に抗議してくる。


 このヴィクトリア様という人は誰かというと、端的に言ってしまえばこの国の第二王女様だ。


 僕の数少ない知り合いの一人で、滅多に外に出られなかった僕が唯一外に出ることが出来た王宮内のパーティで出会った子で、ものすごくいい人で当り前のように美人な子だ。


 スタイル抜群で、お胸は制服から零れて仕舞うんじゃないかというくらいはち切れんばかりの大きさ。それに顔は年相応でにっこりとほほ笑んだ時の顔なんて前世のアイドルなんて比べるのも烏滸がましいレベルの可愛さがある。


 髪は綺麗な真っ赤なロングの髪色をしていてよく手入れされているんだろうなと一目で分かるくらいだ。


 こんなレベルの子が沢山いるこの世界って本当に可笑しいと思う。


 それに比べて、この世界の男の人と言えば....同性の僕が貶したくなってしまうほどのもので。


 母親が皆美人だから、きっと生まれた時は格好良かったんだろうけれどいつの間にかブクブクと太って可愛げのない油を滾らせたあんな姿に。


「それにしても、やはりゾーイ君もSクラスなのですね。流石です」

「ありがとうございます」


 この学校は入れるだけでもかなり優秀だけれど、その中でもランク別になっている。


 Sクラスが一番上で次いでA、B、C、D、Eクラスとなっている。


「それと、やはりゾーイ君はオモテになるのですね。このクラスの大半の女性は、というか今すれ違ってきた女性のほとんどがゾーイ君に惚れたと思いますよ」

「それは、いくら何でも流石にないと思いますよ」

「「はぁ」」


 僕がそう呟くとヴィクトリア様だけでなくアリスまでもが大きなため息をついてぼそぼそと何かを話し始める。


「あんなに、格好良くて優しい雰囲気全開オーラを纏っていれば女性は全員発情するって言うのに。胸がキュンキュンして仕方が無いというのに」

「そうです。ゾーイ様は全く自分の存在価値というものを理解しておりません。だからこんな肉食獣の住処に入園してしまうのです」

 

 肉食獣の住処って、ここ学校ですよ?あくまで学ぶところですから。


 ヴィクトリア様とアリスに諭されつつも、話をしていると時間になり教師となる人がこのクラスへと入って来る。


 それは驚いたことに僕のよく知る人物だった。


「おはよう」


 教壇に立ち、そう言い放ったのはいつも無表情なドロシー先生だ。


 ぼくがハグやおしゃべりしている時は感情をみせてくれる可愛い先生でもある。


 ドロシー先生は教室中を見渡して僕を見つけると、手を振ってきたので僕も振り返してあげると嬉しそうに満足げに頷いた。


 僕が入学することを教えていなかったはずなのに何故かバレてる…。


「私の名前はドロシー。この学園で教授をしている。以上。この後は入学式をするから並んで」


 そう淡々と呟いて教壇から下りて僕の方へと近づいてくる。


 当然教室中のみんなは列を作らず僕たちの方を観察するように見ている。


「ゾーイ、今日から毎日一緒。ぎゅー」

「はいはい、ギューですね。でも、少しだけですよ?入学式始まっちゃいますから」

「うん」


 コクリと頷いてぐりぐりと顔を擦り付けてくる。僕も背が伸びたから丁度鳩尾あたりにぐりぐりがきて少しだけ痛いけれど、ドロシー先生が可愛いからこのままでいいか。


 教室中のみんなは、あっけにとられた様子で僕の方を見ていて、アリスと話を聞いたことがあるヴィクトリア様だけはあきれた様子で僕たちを見ていた。


 まずいなぁ、まだ入学式始まってもいないんだけれど教室中の空気が良くないことに成っている気がする。









 

 

 

 











 

 

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