第85話

 ゾーイがグレアのペットとしての生活に慣れ始めた今日この頃。


 帝国と連合国との会談は三日後に迫っていた。


 だが、グレア、そしてイリアの心中は会談のことではなくゾーイのことについて頭がいっぱいだった。


 グレア達帝国側は最初、ゾーイのことを会談を有利に運び、こちらにとって良い条件の条約を結ぶために利用することだけしか考えておらず、条約を締結した後はゾーイを連合国側へと返すつもりでいた。


 が、心というものは常に変化するものである。


 グレアの心は、ゾーイという男に完全には溺れていないが何かあとちょっとしたきっかけがあれば簡単に全身がゾーイという沼に浸ってしなうほどのところまで来ていたのだ。心の氷は殆ど氷解している。

 

 グレア本人にそんなことを言えば、必ず否定の言葉が返ってくると思うが。


 最近では、ゾーイのことを一切城から出すことをしなくなった。当初、ペットになる条件として提示されていたフリーハグをするということをさせない為である。


 これまたそんなことを言えば、グレアは顔を真っ赤にして否定するだろうが。


 心の変化と言えば、イリアもそうだった。


 当初はグレアのペットとして少しの間だけれども、関係を持つことになるのだからある程度仲良くはしておこうとは思ってはいたが、いつしかある程度の域を超えてしまっていた。


 グレアのペットだとはわかってはいるものの、いつの間にかあの優しさ溢れるハグを求める体になってしまった。


 いや、されてしまったのほうが正しいのだろうか?まぁ、どちらにしろイリアもゾーイへと溺れかけている。


 そんな帝国側は........いや、二人はゾーイを連合国側へと返すということをしたくは当然なくなっていた。


 自国の民たちとのハグですら、顔を顰めるのだから他の国のどこからどう見てもゾーイへと好意を寄せている者達の所へは返したくはないと無意識にそう思い、適当な理由を作り、今どうにかゾーイを自分の手の中に収めておきたいとそう思っているのである。


 本人たちに指摘すれば、ものすごい勢いで否定されると思うが。


 つまり今、帝国、城内ではどういうことになっているのかと言えば、何処かで見た光景のように、二人の女がゾーイへと体を寄せていた。


「ゾーイ、もっと我のほうへと体を寄せんか!!」

「陛下、ゾーイさんが苦しがっています」

「そんなことは無い。なぁ、ゾーイ」

「は、はい」


 ゾーイは困り顔を浮かべながら、三日後の会談が行われて自分はどうなってしまうのかを想像してそっと溜息を吐いた。

 


 


 


 

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