第2話 あれから

「ゾーイ?私の可愛いゾーイちゃん。一緒にお菓子食べましょう、ね?」

「分かったから。頬ずりをするのはやめて。母様」

「嫌です。ゾーイちゃんとは一秒でも多く肌をくっつけていたいんです」


 そう言ってより強く抱きしめ、頬を擦り付ける。


 あれから13年の月日が経過した。


 生まれてから今日まで様々なことがあったけれど、僕は元気にすくすく成長することができている。


 それもこれも周りにいる母様や妹であるシュヴィ、それに屋敷にいるメイドさんたちのおかげである。


 少々みんな過保護すぎなところもあるけれど。


 僕が生まれた家は、いわゆる貴族で、それもかなり高い侯爵家に生まれたようだ。


 神様が僕をこんな良い家に生まれさせてくれたみたいで、本当に感謝しかない。胡散臭いとか思ってごめんなさい。


「お母様だけずるい。お兄様、いつものギューして?」

「はいはい。ぎゅー」


 母様を一度離して、妹のシュヴィを抱きしめてあげる。


「むふふ」


 顔を僕の胸に擦り付けてきれいな銀髪をフリフリとしている。ものすごく可愛くて自慢の妹だ。


 十分にシュヴィを抱きしめてから離す。シュヴィはまだ物足りないような顔をしているけれど、これから授業があるからごめんね。


「今日は授業、お休みしちゃいましょう?」

「ダメだよ。せっかくここまで来てもらっているのに」

「一瞬でここに来るからせっかく来てもらっているってほどでもないような気がするよ?」

「ダメだよ。あの人すごく有名な魔法使いの人だし、賢者様って呼ばれているんだから」

「そんな人に教えてもらっている私のゾーイちゃん天才。可愛い、最高、結婚して!!」

「僕と母様は親子でしょ」

「親子とか関係ないもん。愛さえあれば関係ないもん」


 母様がまた頬ずりをしてくる。本当に僕のことが好きで愛情を注いでくれているんだなってわかって、嫌だとは言っているけれどなんだかんだ嬉しいのだ。


「じゃあ、お兄様。私と結婚してくれる?」

「シュヴィは妹でしょ」

「兄妹とか関係ない。お兄様への愛は無限大だから」


母様とは反対側の頬にすりすりとしてくるシュヴィ。


「分かったから、二人とも。帰ったらギューってしてあげるから母様も仕事して。シュヴィはお部屋でいい子にしてて。またあとでね」

「お兄様の魔法付き?」

「うん、分かったから」

「やったー」

「ゾーイちゃんのギューがあれば私は、どんな疲れだって吹っ飛んじゃうわ」


 と嬉しそうにバンザイをしているシュヴィと母様


 その光景が微笑ましくて僕もニコニコとしてしまう。


 部屋を出て講義部屋へと行くと、その中にはもう人が教卓のの前に立っていた。ここに魔力ポータルを繋いであるから一瞬で来れるからね。


「こんにちわ、ゾーイ」

「こんにちわ、ドロシー先生」


 特徴的なとがった長い耳。真っ白な肌。薄い綺麗な水色の瞳、金色に近いさらさらとした長い髪の毛。本人は気にしているようだけれど小さい背も相まって本物のお人形のような人だ。


 襟の大きい生地の素材がよいポロシャツと真っ黒なサスペンダー付きのなスカートをつけているから余計にそう感じる。


 だが、この人は耳が長いと言った通り人ではない。


 前世で言うエルフという者であり、物語の中だけでしか見たことがなかった存在と実際に会ったときにはものすごく感動したものだ。


 エルフのほかにも獣人族や竜種なんて者もいるみたいで、何時か会ってみたいなって思う。


「ゾーイ、早く座って?授業できない」

「ごめんなさい。座りますね」


 席に着くと、早速彼女は授業を始める。


「さて、この前は中級魔法を教え終わったわけだけれど、覚えてる?」

「はい」


 この世界には魔法というものが存在している。前世の感覚では超常的ものだったが、この世界では普通に使われている。


 適正がある人、ない人がいるけれど。


 神様に貰ったこと体はかなりの魔法適性があって僕はある程度の魔法なら難なく使えるみたいだ。


 だけれど、一番の適性を持っていたのは回復系の魔法だったようで、僕の回復魔法の適性は回復系魔法の使い手の頂点に君臨する聖女様と同レベルかそれ以上らしく、ドロシー先生のほかにもう一人忙しい中、僕の教師を務めてくれている聖女様がいらっしゃるがその話はまた別で。


「それじゃあ、今日は上級魔法のことを解説しましょう。実践は次にします」

「分かりました」


 その後、ドロシー先生が僕にそれはもう熱心に上級魔法について教えてくれる。


 間近ででもう顔と顔がくっついてしまうんじゃないかってくらい近くで教えてくれる。


「あの.......ドロシー先生?いつも言っているんですが近すぎないですか?」

「いつも言っているけれど別に近すぎない」


 毅然とした態度でそう答えるものだから僕が間違っているんじゃないかと思えてしまう。


 その後も間近で教えてもらうこと一時間半程度したところで今日の授業は終了した。


「ありがとうございました。ドロシー先生」

「ゾーイ、いつもの」

「分かってますよ」


 両手を広げているドロシー先生をギューっと思いを込めて抱きしめてあげる。すると「はふぅ.......」と心底安心したかのような、気持ちよさそうな声を上げるドロシー先生。


「この回復魔法が聖女から教えてもらっているってこと以外、本当に最高」

「そういうこと言っちゃだめですよ。聖女様も僕の教師なんですから」


 どうしてこのハグがここまでドロシー様を蕩けさせているかというと、僕の体質というか魔法が関係している。


 一種スキルのスキルと言っていい。


 僕が思いを込めてその人の頭をなでたりすると、暖かな心が安らぎを与えるみたい。だから元から抱きしめるという安心感を与える行為に僕の体質が合わさるとものすごい幸福感や安心感、安らぎを得ることができるのだ。ちなみに思いを込めれば込めるほど癒せるみたい。


 前世の時、母さんが死んで辛かった時や、彼女に浮気されたとき、他にもいろいろ辛いことがあったとき僕はよく父さんに抱きしめてもらっていた。


 魔法なんか使わなくたって、物凄い安心感に溢れたし落ち着くことができた。


 だから、いつかこの力やハグの持っている効力を使って世の辛い人、苦しい人、人肌に飢えている人、男に人に会ったことも無い人を勇気づけてあげたい、癒してあげたいなって思う。


「ゾーイ、やっぱり私の家に来ない?ずっと抱きしめていて欲しい」

「お誘いは嬉しいけれど駄目です。僕にもやりたいことがあるので」


 僕がそう言うと、少しだけムスッとしてしまうが強く抱きしめてあげるとふにゃッとした笑みを浮かべてくれる。


 そのまま抱きしめ合うこと五分程度でドロシー先生を離す。いつまでもしているときりがなくなってしまうからね。


「いつも思うけれど少ない」

「そうですか?」

「うん。だけれど、これ以上わがまま言うのは良くない。帰ることにする」

「分かりました」


 僕から素直に離れて魔方陣の中へと足を踏み入れる。


「またすぐにくるから」

「あんまりこちらに来ていては駄目ですよ?賢者様なんですから」


 講義は一週間に一度しかないけれどドロシー先生は暇さえあればこっちに来ているようなきがするから。


「分かってる。暇な時だけだから」

「分かりました」

「じゃあ、また」

 

 そう言って一瞬で、消えてしまう。


 さて、シュヴィがそろそろお勉強に飽きて僕の所に来る時間だろうから、部屋に行ってあげるとしますか

 



 





 


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