第28話
さて、ゾーイの母であるエヴァと妹であるシュヴィがあれだけ怒っていたということは、もう二人程同じくらい怒っているはずの人物がいる。
一人は、ゾーイの先生でありエルフでありロリであるドロシーである。
アリスが走って、彼女の研究室へと来てゾーイが誘拐されたと聞くのと同時にこの学園全体に内側から外側へと出られない結果を即座に張ったが、惜しくも数刻先にシャーロットはゾーイを連れて、無属性魔法である気配消しと風魔法を使ってこの学校から抜け出し神聖国へと向かっている最中だった。
もう少し気絶から覚めるのが早かったらドロシーの強固な結界にによってさすがのパトリシアも他の七聖女の力を借りなければ出られないほどなので、結界内に閉じこめられたはずだが、それはもしもの話である。
今現実では、ゾーイは奪われてこの場にはいない。
結界内に無属性魔法のサーチを放って、ゾーイの魔力を探すがいないことが分かると、ドロシーは呆然とした。
ドロシーの中で一番目に大事な人が突如として消えてしまった。
ゾーイのあの暖かな温もりが好き。普通の男性から見れば背が小さくてこんな不愛想な私に対して優しくしてくれるところも好き。わがままをきいてくれるところも好き。たまに背が小さいことを小馬鹿にしているときのあの少し悪そうな顔も好き。撫でるとき、抱きしめてくれる時の優しい顔が好き。頻繁にゾーイの屋敷に行って構って欲しいとお願いして、しょうがないなぁという顔をしながらも構ってくれるところが好き。
ドロシーはゾーイのあらゆる部分が好きだった。
いつかは結婚して、誰も来ない秘境に家を建て魔法研究をしながら毎日イチャイチャする。
朝、起きれば隣にゾーイがいて笑顔で微笑んで頬にキスをしてくれる。朝ご飯を作ってゾーイに振舞えば美味しいって言って食べてくれる。お昼まで、抱きしめてもらいながら魔法研究をして、お昼も一緒に食べて、ゆっくりしつつイチャイチャしてまた魔法研究をして、夜ご飯を食べて、一緒にお風呂入って、エッチして「また明日」ってそう言って抱き合って寝る。
そんな夢をドロシーは見ていた。
その幸せな夢を、大好きな、愛している人を取られたまま黙っていられるか?
答えは否だ。
怒りを静め、賢者とまで言われている頭を最大限働かせて、今できることを考えて動き始めた。
「待ってて、ゾーイ。今助ける」
ドロシーは動き始める。
ドロシーが動き始めたとすれば、もう一人、ゾーイの先生をしていたパトリシアと呼ばれる聖女がいる。
彼女はゾーイが攫われたと知ったとき、冗談かと疑った。
あの腐っても賢者と呼ばれるドロシーがいるのにゾーイが奪われるなんて思いもしなったようだ。
深い悲しみと怒りに身を苛まれそうになる。
パトリシアにとってもゾーイという青年は異性の対象であり、愛してやまない人である。
初めて会った時からそうだった。
男性の先生ということで、気を付けて接しようと緊張しながら会った初日のこと。
緊張していたパトリシアを見て、優しく微笑み「緊張しなくても大丈夫です。僕は理不尽に怒鳴ったり、乱暴なんてしませんから」とそう言って抱きしめてくれたのだ。
頭はパニックになったが、直ぐにゾーイの特性である癒しが体中を駆け巡り頭を落ち着かせると同時に全身が気持ちよくなってつい漏らしてしまったことは恥ずかしかったが、良い思い出だとパトリシアは思っている。
今まで、聖女ということもあって男性と接してきたことがあった彼女だが、治してあげたにも拘らずお礼すら言われず、蔑んだ目で見られることばかりだった。
そんな彼女の経験からみると、ゾーイは天使のように見えたのだ。
それからは、お邪魔だとは思いながらもゾーイの家に度々足を運びゾーイと接していく内に愛が大きくなり彼女の頭は、いつしかゾーイのことばかりになっていた。
ゾーイは今何をしているのか。読書をしているのだろうか。妹とお話をしているのだろうか。母親と話をしているのか。ご飯を食べているのか。外で日光浴をしている所だろうか?もしかして、ドロシーとハグをしているのだろうか。それとも一人でエッチをしている所なのだろうか。
他の人のことなどどうでもいい。ゾーイのことだけを考えていたいという聖女らしからぬことばかり考えていた。
いつしか自慰でゾーイを思いながらする日々が増えて行った。
聖女というよりは性女である。
まぁ、今はそんなことはおいておこう。
つまり、彼女もゾーイのことを深く愛しているということだ。
彼女も動き始めた。
愛する人を助けるために。
そして、もう二度とどこへも行かせないために。
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