第29話
「ゾーイ様、あーんです」
「あーん」
「美味しいですか?」
「とっても美味しいです、フィール様」
「フィール様、ではなくてフィールって呼んでくれると嬉しいです。私、もっとゾーイ様と親交を深めたいです」
「じゃあ、僕の事はゾーイって呼んでくれる?」
「それは......うぅ、ずるいですよゾーイ様」
フィール様が可愛く上目遣いで抗議してくる。
ここに攫われてきて僕が目覚めてから一日程度たった。
恐らく、この神聖国は王国へとスパイを送って王国内の事情を把握しているだろうが、王国内でどうなっているのか気になるけれどそれはあえて聞かない。
僕を攫われたことによって僕と関りが深かった母様、シュヴィ、ドロシー先生、聖女様が怒りを力に変え必死で見つけ出そうとしているだろう。そして、無事、ここから出た時僕は.....。
ぶるっと震えが体中を走る。
想像しない方が幸せなことってあると僕は思うんだ。
フィールは先ほどのように公務以外の時間は四六時中僕の傍にいて、何かをしようとするたびに先を越されてされてしまうので、何もさせてもらえない。
フィールがいない他の時間は、他の女性がしてくれるため自分でするのはトイレとお風呂くらいだ。
フィールに食べさせてもらいつつ、食事を終えて部屋へと戻るとと丁度七聖女であり僕を攫った人でもあるシャーロットさんが入ってきた。
朝に挨拶をしてから、今まで何処かへ行っていたので少し気になって質問してみる。
「失礼します、ゾーイ様」
「シャーロットさん、こんにちわ。何をしてきてたんですか?」
「私は聖女と呼ばれる立場の物ですので、恵まれない子供たちに食べ物を与えたり信仰している男性神チーンの偉大さを布教してました」
チーンて.................まぁ、深くは考えないようにしよう。
それより、やっぱり聖女と呼ばれるだけあって恵まれない子供たちにご飯をあげたりしていて、この人は別に悪い人ではないんだなって思う。
僕に抱きしめられて興奮してお漏らしをしちゃうけれど。
この国で少し過ごして分かったのが、どの人もものすごく優しいということだ。フィール様だってそうだし、シャーロットさんもそう。
他の僕の事をお世話してくれている女の人たちもみんな優しかった。
別に、王国の女の人が優しくなかったという訳ではないし、僕に凄く良くしてくれたけれど、なんていうんだろう。この国の人たちは僕に対して優しいというよりは凄く甘いと言うべきか。
本当に何をしても許されそうなくらいなのだ。
例えばだが、もし僕が街で万引きしてもお咎めはないんだろうなと思うし、もし誰かを魔法で傷つけてもきっと処罰はされないだろう。
もしかしたら例え殺したりしても......
まぁ、例えばの話で決してしないから無意味な仮定だけれど。
とその時、部屋のドアがノックされたので開けようとするとシャーロットさんが止めようとする。
「シャーロットさん?」
「い、いえ、開けない方がよいかと思いまして」
「どうして?」
「それは.....」
そもそも、いつものシャーロットさんならば自らドアを開けてくれるような気がするからおかしいと思ったのだ。
シャーロットさんの制止を無視して、ドアを開くとそこには一人のシャーロットさんと同じ服装の女性が立っていた。
「ゾーイ様、お初にお目にかかります、エマと申します」
「は、はじめまして」
この人は一体誰なんだろう?
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