第17話 ある人
「はぁ........今日も仕事に行かなければ........」
私はしがない、冒険者ギルドの職員だ。
日々、むさ苦しい女たちがぞろぞろとやってくるギルド職員になってから一年くらいが過ぎただろうか?いや、そんなに経ってないかもしれない。
毎日、山のように来る依頼の精査。野蛮でどうしようもない女たちの喧嘩を止めたりだとか他にも沢山のことをしている。
そんな忙殺日々に追われ、私の精神はすり減っていき髪も潤いを失い、肌の状態も良くなく、くまも酷いそんな状態の日々が続いていた。
私がなぜ、冒険者になったのかというと、冒険者というものは女勿論のこと男性もなれるのだ。
だから、一般市民の私がもし男性と会うとするのならばこれしかない。
人工授精なんか死んでも嫌だということでギルド職員になったけれどこんな日々。
あの時、そんなバカげた夢を見て入ったバカな私を今すぐにでも殴り殺してやりたいとそんな風に思っていた。
最低限のメイクをしてから家を出て、重い足取りで冒険者ギルドへと向かう途中、急に誰かに声を掛けられる。
「あの.......」
「..................へ?」
なんと私に喋りかけてくれたのは絶世の美少年だった。御伽噺に出てくる王子様と同じくらいいや、それ以上の美貌をもつ少年が私なんかに声をかけてくれている。
あまりの情報量に頭が破裂しそうだ。
「.....これ、夢?なんか目の前に美少年がいるんだけれど?私、過労で死んだんだっけ?」
「大丈夫ですよ、生きてます。それより、あの.....」
「何ですか?」
「抱きしめても良いですか?」
「..................え?」
「「「「「えー!?」」」」
抱きしめてもいいってですかって……へ?
え、君みたいな美少年が私如きを抱きしめてくれるってこと?
........あ、なるほど。分かった。
「やっぱり、私は死んだのか。過労で死んだ私を神様が可愛そうに思ってこんな美少年とハグする権利をくれたのか」
「違いますけれど.....まぁ、今はそれでもいいか。それで、ハグしてくれませんか?」
「喜んで!!」
神様が私にこんなご褒美をくれたのだ。もらわなければ失礼だろうと思い彼の胸に飛び込んだ。
彼の胸は女性特有の柔らかい感じではなくて少し硬くてでも物凄い安心感がある。それに頭がとろけてしまうような包み込まれるような快楽が押し寄せてくる。
さらに彼は優しいことに私のガサついた髪の毛を優しく撫でてくれるみたいで、さらに快楽物質のようなものが流れ出して私の顔は今大変だろうなと思いながらも彼から与えられる途轍もないほどの安心感と快楽に身をゆだねる。
そんなこの世の幸せを煮詰めたような甘いひと時を噛みしめているとふとその時間は終わりを告げる。
彼から離れた瞬間、段々と今まで自分が何をしていたのかを理解していき........
「申しわけありませんでした!!どうか、お許しください」
「謝らなくて大丈夫ですよ」
「...........え?い、いいんですか?」
「はい。というより、僕の方からハグをしてもいいのか聞いたわけですし」
「あ、あれって夢じゃなかったんだ」
「それより、疲れは取れましたか?」
「は、はい!!物凄く疲れが取れましたし、とっても気持ちが良かったです」
「それなら良かった。あなたが元気になってくれて僕は安心しました」
「..................やっぱり、あなた様は天使なんじゃないんですか?」
「違いますから」
彼はこの世に舞い降りた天使様なんだ。
違うと言っているけれど、きっとそう。だって、あんな美少年で私なんかに優しくて癒してくれる存在が天使じゃないんだとするなら何が天使なのだ?
最後にお名前を聞くと、ゾーイ様というらしい。どうやらあの王国立の学園に通っているスーパーエリート様みたいだ。
今更だけれど、男性でそれもあの学園に通っているということはかなりの確率で貴族様の可能性が高い。
失礼なことをしてしまったなと思ったけれど、お咎めがなしだったので天使様のやさしさに感謝する。
どうやら、天使様が降臨された理由はフリーハグという女性に希望を与える素晴らしい活動をしているみたいだ。
私も、天使様のために何かしたい。
そうした思いが沸々と湧き上がってきた。
................そうだ、天使様を讃え崇める宗教を作ろう!!
天使様のすばらしさに触れれば、誰だって天使様のとりこになるはず。
私は、急いで辞表届を書き始めた。
私の人生はここから始まるっ!!
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