第16話 街
ペアの子があのネコミミの人だと分かった次の日の朝。
僕はやりたいことがあるので、学校へ行く時と同じくらいの時間に起きる。
「ゾーイ様、おはようございます」
「おはよう、アリス」
「今日は、遂に学外へ出てしまうのですね」
「そうだね」
アリスが溜息を吐いて、心底嫌そうな顔をしながらそういうので苦笑で応えるしかない。
僕がやりたいことというのは学外で、つまり学園の外でフリーハグをするのだ。事前に学園へと外へ出る許可をもらう必要はあるけれどそこは昨日のうちに伝えて許可証を貰っておいたので、準備は万全ということだ。
アリスをいつものように、少しの間追い出して着替えを済ませてから食堂へと足を運び、朝食を済ませてから早速、学外へ。
いつも以上にアリスは周囲を警戒(威嚇)しながら僕の少し後ろを歩く。
学園の外へと出ると当り前だが街が広がっており、かなりの賑わいである。
それに伴ってか、僕の事を見る人がかなり多い。
観察するものだったり、呆然としてしまう人だったり、瞳に涙を浮かべている者、興味津々な人、目が爛々と光って僕の事を狙っているんじゃないかと思えるくらい発情している人など様々だ。
僕が歩くたびに、道が開けていくため歩くことには困らないのだけれど流石にこれほどの人に見られるのは初めてなので少し恥ずかしいというかなんというか。
フリーハグをする場所に適したもっと人通りが多い場所がないか探していると、みんなが僕を注目する中、一人だけ幽鬼のように顔をどんよりさせて正気を失っている一人の女性が歩いているのを見つける。
彼女はかなり疲れていて、足が覚束ないくらいのものだった。
こういう時こそ、僕のハグがあるんじゃないかと思って思い切って彼女へと近づいていき、話しかけてみる。
「あの.......」
「..................へ?」
間抜けな声を出して返事をしてくれた彼女は、前世で言うところのOLのような感じの人だった。
かなりの美人さんだけれど、目のクマが酷くてメイクも薄れてきているくらいだった。日々、仕事が忙しいんだろうなということが容易に想像がついた。
「.....これ、夢?なんか目の前に美少年がいるんだけれど?私、過労で死んだんだっけ?」
「大丈夫ですよ、生きてます。それより、あの.....」
「何ですか?」
「抱きしめても良いですか?」
「..................え?」
「「「「「えー!?」」」」
周りでことを見守っていた人が声を上げて驚く。
先ほどより、気の抜けた声を出して返す名も知らぬお姉さん。
確かに、会って数秒で抱きしめても良いですかとか良く分からないと思うから仕方が無い。
数秒考えた後、何かに納得したような顔をしてこういう。
「やっぱり、私は死んだのか。過労で死んだ私を神様が可愛そうに思ってこんな美少年とハグする権利をくれたのか」
「違いますけれど.....まぁ、今はそれでもいいか。それで、ハグしてくれませんか?」
「喜んで!!」
僕が両手を広げると飛び込むように抱き着いてくるので、受け止めてあげて髪をゆっくり撫でてあげる。
お仕事が忙しいせいか、少し髪の毛が痛んでいたので回復魔法で直しつつ、僕の特性も生かして彼女を出来るだけ最大限癒せるようにする。
彼女は「ふぅ.....」とか「はぅぁ.....」とか声にならない声を出したり、女の子がしてはいけないようなだらしない緩み切った顔をみせたりとリラックスしてくれているのが分かるので僕も嬉しくなってさらに彼女が癒せるようにと思いを強める。
周りからは嫉妬の目線とか射殺すような視線を向けられてはいるが、彼女は気持ちよい波の中で漂っているため周りの事など見えていないみたいだ。
数十分程度してから、彼女の事を離す。
段々と正気に戻っていき、今現在自分がどういう状態で何をしていたのかを理解したのか僕に急に土下座をし始める。
「申しわけありませんでした!!どうか、お許しください」
「謝らなくて大丈夫ですよ」
「...........え?い、いいんですか?」
「はい。というより、僕の方からハグをしてもいいのか聞いたわけですし」
「あ、あれって夢じゃなかったんだ」
「それより、疲れは取れましたか?」
「は、はい!!物凄く疲れが取れましたし、とっても気持ちが良かったです」
「それなら良かった。あなたが元気になってくれて僕は安心しました」
「..................やっぱり、あなた様は天使なんじゃないんですか?」
「違いますから」
彼女が元気になってくれて何よりだ。
次は.....
「えぇっと、今この場にいる人で僕とハグしてくれる人いますか?」
「「「「「私が!!」」」」」
学園の時のようにアリスが先導して列を作らせる。
あっという間に長蛇の列が作られる。
十数分程度で、先が見えないほどの列が作られている。これから噂が噂を呼んで今以上のモノになると予想が出来る。
道行く人の邪魔にならなければいいなと思ったけれど、歩いていた人がUターンして列に並んでいくからさらに列が長くなっていく。
これ、夕方までに全部終わるかな?
精一杯頑張った結果、三分のニ程度は終わらすことが出来たが、すべては無理だった。
ハグできなかった人は悲しみに暮れていたが「来週もします」と言うと絶対に行きますと宣言してくれた。
後に僕は「休日の天使」とか呼ばれるようになるんだけれど、それはまだ先の話。
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