第65話

「陛下、最近他の国々が争い合っていますが…」

「そんなの知っておるわ。だが、その理由までは詳しく分からぬが…」

「女王様、そのことですが、どうやら一人の男が関わっているみたいで…」


 帝国の一室。


 青色の髪を片手で弄りながら深く椅子に座り退屈そうにそう呟くのはこの帝国の女王であるグレアであるが、彼女の付き人であるイリアがそう報告すると、興味深い瞳でイリアの方へと視線を向ける。


 グレアが興味を示したため、イリアは話を続ける。


 まぁ、この話は帝国のこの先に関わる事かもしれないのでたとえ興味を示さなかったとしても話すつもりだったが。


「どうやら、その男が物凄いイケメンのようで…」

「…ん?今何て?」

「イケメンなんです。それと、優しくて女性に優しいとの報告です」

「…我が国では、男など搾精する価値しかない存在だが、他国にとって男とは崇拝や大切扱われるべき存在であるはずだろう?」

「そうですね、その通りです」

「そのせいで、男共はつけあがって粋がって私たち女を道具のように扱って…!!」

「…そう、ですね」


 グレアの心は激しく荒れていて、先ほどまでは落ち着いていた川が濁流のようになっている。


 イリアはその様子を心配しつつも、宥めることはせずグレアが自分自身の心を安定するまで静かに待つ。


「…イリア、話を続けろ」

「はい、その男はどうやら最初聖王国に攫われた後、エルフ国へと逃げた後その後の行方は分からなかったのですが、エルフ国内で何が行われたのかは分かりませんが三国会談が行われるようです」

「なるほど」

「そして、その男はエルフ国の女王ヴィ クトリア、聖王国の女王と七聖女、そして王国のヘレナそして賢者ドロシーがその者を深く愛しているようです。著名な者の名を挙げただけで他多くの者もその男の虜のようです」

「…どうせ、その男も」


 そうグレアが諦めた声で 小さくボソッと呟く。


 イリアはグレアのその様子を悲しそうに眼を伏せて何も言うことはしない。


「どうしますか?私達も介入しますか?」

「…流石に我が軍を動かしたとて、三か国の連合軍に勝てるとは思えん」

「そうですね」

 

 帝国は他国に比べれば軍事力は高い。


 兵士の素質、統率力も申し分ない。だがそれでも三対一は普通に考えて無理だ。


 が……


「ですが、失礼とは分かっておりますが陛下が戦場に出た場合はどうでしょうか?」

「…ふっ、愚問だな。私が負けるとでも?」


 パキパキと音を立てて床が凍り付いていく。


 このグレアと言う女性は今までの帝国の歴史の中でも随一と言っていい程、戦争の才に長けていた。


 そして、彼女はこの世界では有数の魔法の才に恵まれていて水、そして氷の魔法に優れており、人間ではごく少数である精霊が見える人間であり水、氷の上位精霊と契約していた。


 その才能はヴィクトリア、そしてドロシーさえも凌駕しかねない程であった。


「取り合えず、その男の事を良く調べろ。そして、その男がこの国に有益であるのなら奪え」

「分かりました。が、きっと守りは頑丈でしょう」

「分かった、その男が有益であると分かった場合、私が出よう。そして……そうだな、奪った暁にはその男を私直属のペットにすることにしよう。搾精するだけの奴隷にするのは、奪われた側も可哀そうだからな」

 そう言って、ニヤリと笑った。

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