第84話
「ご主人様、邪魔じゃないですか?」
「邪魔ではない。気にするな」
「でも、明らかに文書とか見えないような気がするんですけれど」
「大丈夫だ」
今日もご主人様に許可を貰い、帝都に行ってフリーハグをしようと思っていたけれどご主人様が渋い顔をして「私の公務に付き添え。いるだけで構わん」とそう言ってきたため、僕は今、ご主人様の指示に従って膝の上に座らせてもらっているが、やはりみえていないのではないかと思い、聞いてみるが先ほどからこう返されている。
しつこいとは思うけれど、絶対に膝に座っていないほうが良いと思う。だって、資料とか見ずらいだろうし。
「もしかして、ゾーイさんは陛下の膝の上では居心地が悪いのかもしれませんね」
「…」
とイリアさんが淡々と自分の作業を熟しながらそんなことを何気ないようにそうつぶやく。ゾーイを膝にのせているグレアに対して少しだけの嫉妬心を芽生えさせながら。
イリアのそんな言葉に対して、グレアは読んでいた手を止める。
空間が段々と物理的に冷えていく。
「ご、ご主人様?」
「ゾーイ」
「な、なんですか、ご主人様」
「我の膝の心地が悪いのか?だから自分が邪魔だと言っているのか?」
グレアの真剣な問うような目を向けられ、強制的に目を合わせさせられる。
「本当に居心地が悪いわけではないです。ご主人様の公務に支障がなければ僕はこのままでも全然構いません。むしろ、ご主人様の膝の上に乗ることができて嬉しいです」
「そ、そうか。我は全然大丈夫だから気にすることは無い」
ゾーイのその言葉に頬を染め、先ほどまでピリピリとしていた空間は噓のようになくなっていた。
イリアは、グレアがゾーイへと心を許しかけているそんな姿を見て自分の主が大きく変わり始めているのを感じるのと同時に、胸がもやもやとするのを感じ取った。
聡明な彼女はこのもやもやとした感情が何なのかはすぐにわかったし、捨て去ろうとも思ったが、この前に抱きしめあった時の優しさ溢れる温もりが頭をチラついて、離れなくなっていた。
私も、あなたのことを膝に置きながら、いえ、後ろからハグしてもらいながらでもいいから仕事をしたい。
そんな気持ちが沸々と湧いてきて仕方がなかった。消そうとしてもべっとりとこべりついてなかなか離れようとはしない。
午前の仕事が一旦の終わりを告げると、暇を見計らってイリアはゾーイへと近づく。
「ゾーイさん。あの……」
「どうしたんですか、イリアさん」
「わ、私にハグをしてくださいませんか?」
「いいですよ」
イリアがハグを求めてきたことに疑問を抱きつつも、拒むことはせずにイリアをハグした。
「ありがとうございます」
「いえ、ハグをすることくらい何てことないですよ」
そのまま数分程度そうしていると...........
「ゾーイ、イリア、ずいぶん楽しそうだな」
と聞いたことのないほど冷たい声が響いた。
「どこに行ったのかと探してはいたがまさか仲良くハグをしているとはな」
グレアが歩くたびに床が凍る。
「陛下。私は以前申し上げた通り親交を深めていただけです」
「うるさい、早く我のペットから離れろ。そしてゾーイはすぐに我をハグしろ」
「え!?」
「はやく!!」
イリアから奪うようにして、ゾーイを抱きしめた。
イリアもグレアに無礼だとわかっていても、ゾーイのことを離そうとはしなかった。
「イリア、いつから私の言うことを聞けなくなったんだ?」
「へ、陛下だけずるいです」
「ずるいとはなんだ?我はペットと触れ合っているだけだが?」
二人がバチバチと火花を散らす。
午後もこれが続き、寝るまでその日は続いた。
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