第83話
グレアの心中はここ最近、乱れていた。
不調というわけでは断じてない。
凍てついた氷のような己の心が脈を打つようにして、その氷に罅を入れている。その理由は明らかで、自分で攫ってきたゾーイという少年のせいであった。
自分の過去の記憶。
男性を搾取するだけの対象とみるのはおかしいと思い、手を指し伸ばしたがそれによって横暴に振舞うようになった男共のことを思い出す。
やはり、男は搾取の対象でしかないと認識を改めることになったあの記憶。
そのことを思い出し、ゾーイと照らし合わせるがどうにもやはりゾーイという男は他の有象無象の搾取するしか価値のない阿呆どもとは違う存在だとグレアの聡明な頭は導き出した。
ゾーイという人間はそも魂の根本がこの世界の男とは違う。そんな感覚だった。
女性を嬉々として抱きしめ、女性が喜んでいる所を見るとまるで自分の事のように嬉しそうに笑みを零す。自分が男であるということに慢心することなく、男であるからこそ女性に対して優しくすべきだという心意気。すべてを優しさで包み込んでしまうのかと思うほどの包容力と同時に、母性本能を擽られるあどけない可愛さ。
何もかもが他の男と違うのだ。
己の目の前でぐっすりと幸せそうに眠っているゾーイの顔をじっと見る。
神様が一つ一つ丁寧に作ったのではないかと錯覚するほど綺麗なシミ一つない綺麗な顔。ブクブクと太ってオークなのではないかと思うほどの顔である他の男とは天と地以上の差がある。
なるほど、確かにこれは神がこの世界に送った天使なのではないかと錯覚してしまうほどの良い男だ。
自分も過去のこと、そして自身の心と脳を凍結魔法で制御していななければきっと自身もこの男に篭絡されていたのかもしれない。
「ペットのくせに生意気だな、お前は。人の心にずかずかと許可なく入ってくるななんて。お前でなければ、今頃死んでいてもおかしくないのだぞ?」
とグレアは意識せずに慈しみを込めた視線でゾーイの頭を撫でいている。
その問いにゾーイは答えることは無いが変わらずに頭を撫で続ける。
グレアは、自分自身に変化が訪れており、それがゾーイが原因であるということが分かっていたが、特段それを気にすることは無かった。
自分は他とは違い、自分を制御できる。それに、自身の過去のことがある。そのため、ゾーイに傾倒するなんてことは無いと高を括っていた。己の心は何よりも強く気高い。
そう思っている。
だが、その凍てついた心が現時点でかなり氷解し始めており、段々とゾーイという太陽に飲み込まれている事に気付くことは無く、濁り始めている目でゾーイを見ながら頭を撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます