第79話
朝目覚めると、いつものキリっとした顔つきではなくどこかあどけなさを感じさせる顔を晒し、涎を誑しながら寝ている自分のご主人さまの顔を見る。
大体こういう時はいつも胸が目の前にあることが多かったから、こうして誰かの顔があることは珍しい。
今は何時だろうとそう思うとまだ窓からはほんの薄い光が入って来るだけで、外は薄暗い。明け方と言っても良い時間だったので、もう一度ベッドの中へと潜り、ゾーイはこの先の事を考える。
それにしても、僕、これからどうなっちゃうんだろう?寝て起きたら帝国だし、きっと取り残された母様達はきっと酷い有様だろうし。
その光景を想像してみる。
きっとあの場にいて自分を助けられなかった者は自決を選ぼうとするのではないか?他の者はきっとそれを必死で止める。ドロシー先生たちは……たぶん気にもしていないような気がするけれど。
きっとあの人たちはどうにかして攫われた僕を取り戻そうとするだろうなぁ。それで、もし帝国とあの三か国との戦争とかになったら、多くの血が流れてしまうだろう。僕はそんなことは望んでいない。
どうにかして、この危機を回避しなければいけないと思うけれどその案がない。
さて、どうしたものかと天井を見つめていると隣がもぞもぞと動き、身を起こす。
「おはようございます、ご主人さま」
「……んっ。あ、あぁ、そう言えばそうだったな。おはよう、ゾーイ。早いな」
グレアは一瞬、どうしてここにゾーイがいるのかと言いそうになったが、己が一緒に寝ろとそう言ったことを思い出して、止めた。
ゾーイは寝起きで少しぼぉーっとしているグレアを見て、いつものようにキリっとしていない今なら、こんなことを言っても許されるかもしれない。より仲良くなれるかもしれないとそう思い、こういった。
「ご主人さまの寝顔、とっても可愛かったですよ」
「…なっ、な!?う、うるさい。誰が勝手に見ていいと言った!!」
「すみません」
自身の口の端に残っていた涎を拭き、頬を真っ赤に染めてゾーイの事を睨むように見る。その様子をゾーイは微笑ましく見てにこりと笑う。
グレアが落ち着きを取り戻したところで、話し始める。
「ご主人さま」
「なんだ?」
「今日も帝都へフリーハグに行ってもよろしいですか?」
「今日、か。......今日は我は予定があるからなぁ」
とグレアは今日の事について考え、そう呟いたがゾーイの顔を見てこう口にする。
「仕方が無い。イリアをお前に付けるから行ってこい」
「いいんですか?」
「良いと言っているだろう」
「ありがとうございます」
ゾーイがそう言って嬉しそうにしているところを見て、グレアは優しく微笑んだ。
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