第8話 朝

「おはようございます、ゾーイ様」

「おはよう、アリス。ところでどうしてこの部屋にいるのかな?」

「私は貴方のメイドなので当たり前の事では?」


 何を今更という顔をしているけれど、男女の寮は分かれていて男子寮は女子禁制なはずなんだけれど、アリスはすました顔で侵入してきている。


 と言ってもこの男子寮に住んでいるのは僕だけなのだけれど。


「寮の規則で女子は男性寮に進入禁止っていうルールだったはずでは?」

「私はただの女子ではありません。ゾーイ様の女ですから。なので、明日も、その次の日もここに来ます」

「.........はぁ。分かったよ。でも先生達にはバレない様にしててね」

「分かりました」


 アリスは僕のお世話の事となると一歩も引かなくなるので、こういう時は僕が折れた方が良いと学んでいるため、素直に折れることにした。


「今日から学校生活が始まるわけですけれど、フリーハグは今日から始めるということでよろしいですよね?」

「そうだね、今日のお昼休みにしてみようかなって思ってるよ」

「分かりました。それで、お着替えの方は.........」

「させないからね?着替え終わるまで、トイレの方に行ってて」

「...............はい」


 ものすごく悲しそうに返事をするアリスに少しだけ罪悪感が湧くけれど、年が近い女の子に着替えさせられるなんて、侍女とは言え流石に恥ずかしいのだ。


 トイレへとアリスが入っていった後に、僕が着替えを済ませたので、朝食を取りに食堂へと行く。


 食堂は男子と女子兼用になっている。


 理由は明確で、そもそも男子が入学してくるなんてこと滅多にないから男子寮に食堂を設置しても意味がないからだ。


 僕が食堂へと着くと、一斉に僕の方へと振り返ってじぃっと観察するように見てくる。


「シャー!!」

「こら、威嚇しないの」


 アリスを宥めて、僕も朝食を食べることにする。


 やはり、男性の僕にみんなが遠慮をして、まるでモーゼが海を割る様に、僕が通ろうとするところに道ができる。


 そして、朝食をもって席へと付くと、一斉に僕が食べる朝食と同じものを食べようとして、ごった返している。


「ふっ、惨めなものです」

「アリス、そんなこと言っちゃダメでしょ?」

「分かりました」


 本当にわかっているのか疑問だが、まぁ今は朝食を食べることに集中しよう。


 手を合わせて黙々と朝食を食べ始めて、アリスと僕は食事をとり終えたので一旦それぞれの部屋に戻って、学校へと向かう準備をしてゆったりと散歩をするように登校をする。


 まだ、予鈴まで時間にはかなり余裕があるけれどここら辺を少し散歩してみたかったっていうこともあるので、アリスとともにのんびりと歩く。


「気持ちいいね。朝からこうやって散歩をするの」

「そうですね。ゾーイ様と一緒ならばどんなことだって楽しいし幸せです」

「ありがと」

「それに、こうして将来私と、ゾーイ様、そして私たちの子供も一緒に散歩をすることもあるでしょうから、その予行練習でもありますしね。本当に幸せです」


 確かにアリスはとてもいい子だし、この世界ではどれだけ娶っても構わないため将来的にはそうなる可能性だって大いにあるだろう。


 というか、アリスがそれを望んでくれるのならば僕だってそうなりたいと考えているけれど、そのことを伝えれば今すぐにでも既成事実を作られて、穏やかな森の中で暮らしそうになるため言わない。


 散歩をしながら学校へと行き、ヴィクトリア様とも教室で挨拶をして席へと付くと丁度予鈴が鳴る。


 それと同時にドロシー先生がいつものように無表情で入室してきて、出欠を取ってから事務報告をしてから..........


「おはよう、私のゾーイ。朝のぎゅー」

「おはようございます、ドロシー先生」


 無表情だったドロシー先生が僕のハグや頭なでなででその表情が崩れるのが少しだけ嬉しい。


「ゾーイ、どうせ授業の内容聞いても全部わかってるだろうしここの教員よりも強いから暇でしょ?私の研究室に来て?」

「それは嬉しいお誘いです」

「なら」

「けれど、僕はここの生徒なのでそれはできません。放課後によって行きますので」

「むぅ......仕方がない。ちゃんと放課後来て」


 ドロシー先生は名残惜しそうに僕から離れると、教室を去っていく。


 すれ違いに一限目の担当教師が入ってきて、授業が開始される。


 一時間目、二時間目、三時間目と何事もなく時間は過ぎていき、お昼の時間となった。


 さて、動き始めるとしますか。

 

  

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