第4話 聖女様

「おはようございます、ゾーイ様」

「おはようございます、聖女様」


 講義室に入ると、いつものように聖女様が先に来ていた。


 聖女様の見た目は、黒と白のツートンカラーの綺麗なロングの髪の毛をしていて、目は黄色で、背は普通くらい。


 スタイルがものすごくよく、どのくらいのカップ数なのかもわからないくらいに胸が大きく、くびれがあって前世のモデルなんて比にならないほどだ。


「もぅ、違いますよ。私は聖女様、なんて名前じゃありません。しっかりと名前で呼んでくださいませんか?」

「ですが……」

「私がいいと言っているのだからいいのです。それとも、ドロシー先生はいいのに私はダメなのですか?」

「うっ...............分かりました。パトリシア先生」

「パティやトリッシュと呼んでくださっても構わないんですよ?」

「それは、ごめんなさい」

「ふふっ。分かっています。今はまだそれでいいです」


 聖女様を愛称呼びするなんて流石にできない。


 この聖女様は物凄い人で、孤児院の恵まれない子供にご飯を提供したりだとか、医者に払う金がない人を無償で助けたりだとか単純に回復系魔法を極めているすごい人でもある

 

 そんな優しく慈愛に満ちていることから聖母だとか言われているみたい。


「それでは、今日の講義を始めます。といってももうゾーイ様に教えることなんてありませんけれど」

「そんなことは...............」


 僕の回復魔法の習得速度が異常に速いため、上級魔法どころか超級まで使えるくらいになってしまった。


 今の僕なら、完全に死んでいない人ならばどれだけ負傷していても直せるくらいなのだ。


「ですので、私は貴方自身の心の痛みを直すことくらいしかできません」

「別に、大丈夫ですよ?病んでいたりするわけではないので」

「私は心配です。あの賢者とか言う胸の小さく柔らかくもない女とハグをして傷ついているのではないかと思って」


 僕の頭を自分の大きくて柔らかい胸に持っていく。


「私は、貴方のことを心から慕っているのです。あなたはこの世界に舞い降りた天使様なのですから。この綺麗な顔立ち、そして心の純粋さや優しさ。本当に非の打ち所がないほどの男性です。こんな男性は天使様以外にはあり得ませんから」

「僕は、天使なんかじゃありませんよ。パトリシア様の方が天使だなって思いますよ。ものすごくきれいな方ですし、聖母なんて言われるほどの優しさも持ち合わせていますから」

「っ!!もぅ、ゾーイ様?私も女です。あまりそう言ったことを言わない方が身のためですよ?こうやって、がおーって襲っちゃいますからね」


 そう言ってギューっと僕のことを抱きしめてくれる。抱きしめる時に一瞬だけ見えた目がキラリと光っていたのは気のせいだと思う。


 だって、聖女様だからね。


 僕も聖女様の背中に手を回して抱きしめ返す。いつもお仕事お疲れ様ですという気持ちを込めながらハグをすると「はぅ」っと気持ちよさそうな声を上げてくれる。


「やはり、貴方のハグは何事にも代えがたい魅力を持っていますね。疲れなんて一瞬で吹き飛んでこれから三日間くらは寝ずに頑張れそうです」

「駄目ですよ、聖女様。しっかりと休まないと体に障ってしまいますから、しっかり休んでくださいね」

「分かりました。あなたがそう言うのでしたらしっかりと休みたいと思います」


 聖女様をギューっと抱きしめてあげる。実はこれ、回復魔法の練習になっている。


 僕が思いを込めれば込めるだけ相手は癒されるようだから、その加減を聖女様は実際にやらせてくれているみたいだ。


 だから、何もしていないわけではない。何かあったときは聖女様自身が自分を直せるからね。


 力加減を聖女様の反応を見て変えつつ、ハグをすること数十分。


「そうだ、今日は別のことも試してみませんか?」

「別のことですか?」

「そうです。ハグ以外によりよく癒しを与えることができるものがあるかもしれませんよ?」

「そう言えば、そうですね」


 そう言えば試したことがなかったな。頭を撫でても癒しを与えることができるくらいしか知らなかった。


「では、まず、何からしますか?」

「そうですね、手をつないでみましょう」

「分かりました」


 真正面にいる聖女様は天使の微笑みをされながら僕の手を取ってくれる。


 照れながらも僕は聖女様を思いながら手をつないでみると.........


「どう、ですか?」

「感じられます。とても優しく癒されますね。ですが、やはりハグの方がよいかもしれません」

「では.........こっちではどうです?」

「ぞ、ゾーイ様!?それは恋人繋ぎというものでは?」

「こっちの方が伝わるかなって思ったんですけれど」


 僕が握り方を変えて恋人繋ぎをしてみると、パトリシア先生は酷く恥ずかしがってしまう。


「そ、そうですね。先ほどより癒されますがやはりハグの方が伝わると思いますね」

「そうですか。うーん、じゃあバックハグはどうですか」

「ば、バッグハグですか?」

「はい、いつもは向き合ってする形でしたけれど、後ろからしたら伝わり方も違うんじゃないかなって思って」

「そ、そうですか」

「嫌ですか?」

「いえ、そんなことは。ゾーイ様がしてくれると仰るなら喜んで受けます」


 パトリシア先生が後ろを向いてくれたので、そっと抱きしめる。


「どう、ですか?」

「んっ。ぞ、ゾーイ様。ゾーイ様のお声が近くて.........」

「あ、ごめんなさい」

「ち、違います。もっとしてくださいっていう意味です!!」

「そ、そうですか」


 食い気味でそう言われてしまってさっきの位置まで戻す。


「これ、いいかもしれませんね。いつものハグとは違って新鮮味があって、正面の時と癒され方に差異はありませんがこっちも捨てがたいです」

「なるほど」


 その後もいろいろ試してみたが、結果やはりハグが一番効果的だった。


「あ、幸せな時間という者はあっという間ですね。もう私の授業の時間は過ぎていました」

「あ、ごめんなさい。長々と付き合わせてしまって」

「全く問題ないですから、謝らないでください。むしろあなたともう一歩親密になれて私は嬉しいのですから」

「そ、そうですか」


 そんなことを言って微笑まれてしまったら、こちらが照れてしまう。

 

「では、今日はここまでにしましょうか」

「ありがとうございました」

「またすぐに会いましょうね?ゾーイ様」

「ドロシー先生もですけれど、聖女様もお仕事しっかりなさってくださいね」

「私は、あの者とは違ってしっかりやっていますから。では、また」


 魔法陣に乗って、教会へと転移されるパトリシア様。


 さて、僕も部屋に戻りますか。

 




 

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