第5話これから

「僕も明日でここを離れるのか」


 僕も十五歳となり、来週から王国内、いや世界有数のへと学園へと通うことになる。


 本当は男の人は学校になんて通わなくたって構わないのだけれど、僕は学園に行きたいなって思うし何より王都や学校でしてみたいことがあるから。


 勉学の方はドロシー先生とパトリシア先生から教わっていて、もう学ぶことなんてほとんどないけれど。


「うぅぅ.........ゾーイちゃん。やっぱり考え直さない?お外は危険だよ?一生お家に篭ってゴロゴロしていた方がいいとママは思うなー」

「ごめんね、母様。僕にはやりたいことがあるから」

「ゾーイちゃん、本当に行くの?それこそ考えたほうがいいよぉ。あんなことがあったんだから」

「ごめんね、それでもしたいんだ」


 僕が学校へ行くこととフリーハグをすることはもう伝えていて、学校への入学試験も無事済ませることができている。


 母様から承諾を得るという最難関ミッションをどうやってクリアしたかというともうごり押しのようなものだった。嫌嫌と首を振る母様を説得するためという訳ではないけれど磨きに磨いた癒しハグや頭ナデナデ、トドメに頬にキスをして、どうにか言質を取ることに成功した。


「大丈夫です、何か問題が起きないように私が見張っておきますから」


 条件付きで絶対にアリスを学園に同行させることを約束されたが。


 アリスはものすごく優秀で世界有数の学校にも普通に入れるくらいの実力があった。アリス凄い。


「大丈夫だよ、母様。今は僕結構強いんだよ?」

「それは、分かってるけれどぉ」


 ドロシー先生から教えてもらえる魔法はほとんど習得したといっても過言ではない。


 母様はそれでも心配そうな顔をするのでぎゅーっと優しく抱きしめてあげる。


「ぞ、ゾーイちゃん」

「ごめんね。でも、辛い女性とか恵まれない女性が少しでも幸せな気持ちになれたらなぁって思っての行動だから許してくれないかな?」

「うぅ.........分かったよぉ。もう我がまま言わない」



 フリーハグをするための準備に取り掛かることにした。


 要らなくなった平べったい木の板を見つけて、『FREEHUGS』という文字を書いていく。準備するって言ってもこれくらいしかすることないんだけれど。


 ちなみに、僕がフリーハグをするということは、ドロシー先生やパトリシア先生には話していない。話すと反対されてしまうと思ったからだ。


 ごめんなさい、ドロシー先生、パトリシア先生。


 まぁでもドロシー先生にはバレてしまうだろうな、なんていったってあの人はあの学園の教授様なのだから。


「ゾーイ様は本当に素晴らしいお方ですよね」

「ん?急にどうしたの?」

「私を助けてくれた時もそうですし、これほど女性について考えて動いている男性はこの世界にはいないと断言できます」

「いや、多分僕以外にもいると…」

「いません、そんな人」


 ずぃっと顔を近づけてそう話すアリス。


「そんな人この世界にはゾーイ様しかありえません」

「わ、分かったから一旦落ち着こう、ね?」

「す、すみません。熱くなってしまって」


 恥ずかし気に体を離して、顔を俯かせるアリスに愛おしさを感じる。まるではしゃぎすぎて怒られてしまった犬のようで。


「でもありがとうね、アリス。僕の事をそんなに褒めてくれて」

「は、はい」


 頭を撫でてあげると気持ちよさげな顔をして目を細めているので、もっとしてあげたくなってしまい優しく抱きしめる。


「いつもありがとうね、アリス。これからも一杯迷惑かけちゃうと思うけれど見捨てないで欲しいな」


 意図したつもりがなく、前世のクズ男のような発言をしてしまった。

 

 アリスの反応を見てみると、目を輝かせて僕の眼をジッと見てくれる。


「私がゾーイ様を見捨てるなんてありえません。死んでもあなたに付き添いますから」


 と強く抱きしめ返してくれる。


 抱きしめあったまま数分間経過して、そろそろ離そようと思ったけれどアリスがなかなか離れてくれない。


「あ、アリス?」

「ゾーイ様、ゾーイ様、ゾーイ様、ゾーイ様、ゾーイ様、ゾーイ様、ゾーイ様。愛しております、愛しております。心からお慕い申しております。これから先、あなたの傍であなたと共に生きられることがどれだけ幸福なことか。あぁ、ゾーイ様。私の神様。これから先も、その先まで私はあなたと共に」


 胸に顔を擦り付けて何かをぶつぶつと呟いているアリス。


「アリス、大丈夫?」

「.........!?あれ、ここは?」

「ここは、僕の腕の中だよ」

「あぁ、天国ですか。私は死んだのですね」

「死んでないから、生きてるから」

「凄いです、本当に。まるで生きているみたいで」

「だから生きてるんだって」


 何度か強く揺さぶることで、正気を取り戻したアリスは「お見苦しいところを見せてしまいました」といって恥ずかし気に顔を逸らした。


「さ、さて明日も早いし、今日は疲れているだろうから早めに寝ようかな」

「そうですね、ではおやすみなさい」

「うん、お休み、アリス」


 来週からの学園生活、少しだけ不安なこともあるけれど楽しみという感情の方が強いかな。

 


 

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