第76話

「ゾーイ、久しぶり!!」

「って、エリザ様?どうしてここに?」

「お母様.......陛下がゾーイの事を攫う時に私も一緒に帝国へと戻ってきたの。あのまま王国にいれば私は人質にされかねないから」

「なるほど」


 エリザ様は部屋の扉を堂々と開けると勢いよく僕に抱き着いてきた。


 こうしてエリザ様と話すのは数か月ぶりとなるな。急に聖王国に攫われて、次はエルフ国へと行って、新しく国を作る事となって、今度は帝国に攫われて。


「僕がいない間、学園では何かありましたか?」

「特に何も.......あぁ、そう言えばゾーイのハグを受けられなくなった学園のほとんどの者がゾンビのようになっていてひたすら「ゾーイ様、ゾーイ様。私達にお恵みを」とか言っていたわ」

「あ、あはは.......」


 帝国から無事に帰ることが出来たら、学園のみんなや王国、聖王国、エルフ国の国民たちともハグをしなきゃ。


 このまま放っておいたらきっと、ゾンビだらけになってしまうだろうから。


「こう言うのは難ですがエリザ様は他の人のようにならなかったんですか?」

「私は他の者とは違うわ。私はゾーイのお友達だから。他の者と一緒にしてもらっては困るわ」


 とエリザ様はそう言う。


 その瞳はよく見る瞳と似ていたような気がした。そう、あのドロドロとして歪な視線に。


 それを隠すようにエリザ様を少し強く抱いて、顔を隠した。


 そのまま数十分、ハグしたままでいるとまたまた扉が開いて、入ってきたのは.......


「ご主人様、もう公務は終わったんですか?」

「ああ、終わった」


 そう言ったご主人様は僕に抱き着いているエリザ様を一瞥すると、少しだけ眉間に皺を寄せる。


 エリザ様と言えば、僕とのハグに集中しすぎてご主人様に未だ気付いていないようである。


「エリザ様、お母様が来ていますよ」


 と揺さぶってみるとやっと正気に戻り後ろを振り向くと、ご主人さまが少々お怒りの様子でエリザ様を見ていた。


「エリザ」

「は、はい。お母様」

「ゾーイは、私のペットだ。勝手に触る事を許した覚えはないが?」


 ご主人さまが喋るたびに床がパキパキと音を立てて凍っていく。だがエリザ様も顔を青ざめているものの、勇気を出していい返す。


「ゾーイは私のお友達です.......だから私にも触れ合う権利はあります」

「ほう。ゾーイ、エリザとお前は友達なのか?」

「えっと、はい。王国の学園で出会ってそれで友達に」

「なるほど.......だが、今は私とゾーイの時間だ。ここから出ていけ」

「わ、分かりました」


 ご主人さまは少し語気を強くしてエリザ様にそう言い、エリザ様は少し怖がりながらも了承し、部屋を出て行った。


「ご主人さま、あんな風に言わなくても」

「五月蠅い、お前は私のペットだろう?口の利き方に気を付けろ」


 そう言って、僕の頭を強引に撫でる。


 エリザ様とご主人さまは仲が悪いのかな?

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