第19話 聖女様

 昨日のフリーハグは大好評で、ハグした人からは泣かれてしまったり嬉しすぎて失禁してしまった人までいたくらいだ。


 寮の門限で列になれんでくれたのにハグできなかった女性たちはこの世の絶望みたいな顔をしていたけれど、来週もすると言ったら泣きながらありがとうと言ってくれた。


 あそこまで、求められると凄く嬉しくなるし応えたくなる。

 

 来週はもっと人が来てくれると嬉しいんだけどな。


 そんなことを思いながら、アリスと昼食後のティータイムを楽しんでいると……


「ゾーイ様」

「こ、こんにちわ」


 ニコニコ顔の聖女様がいた。


 素晴らしいまでの完璧な笑顔で作り物なのかと疑ってしまいそうになるくらいだ。美人の真顔は怖いというが聖女様レベルの美女だと怖いなんてレベルじゃない。こちらから罪を懺悔したくなるレベルだ。


「ご機嫌いかがですか?ゾーイ様」

「え、えっと、安穏と致しております?」

「そうですか、それは何よりです。私はそうですね.....最近物凄く傷つくことがございまして」


 絶対にこれは、僕が聖女様に何も言わずに学園に通い始めたからだろうな。もしかしたら、フリーハグをしていることもバレているかもしれない。

 

「私が傷ついている理由、分かりますか?」

「えっとそれは.....僕が、黙って学園に入学したことですか?」

「いえ、違います。それもとても悲しいことですがそれ以上に悲しいことがありまして」


 聖女様が言葉を発するたびに僕の胸にとげが刺さるが、真摯に謝らなければ。


「フリーハグの件についてでしょうか?」

「それについては、ゾーイ様らしくて大変良いことだと思います。ゾーイ様から抱きしめられた女性の人は皆幸福そうな顔をしていたことが容易に想像がつきます。ゾーイ様の教師役としてとても鼻が高いですね」


 フリーハグの件についてはお咎めなしどころか、褒めてくれている。


 では、本当になんで聖女様が怒っているのかが分からない。


「.....ごめんなさい。聖女様が何で起こっているのか分からないです」

「うふふっ、仕方がないですね。正解は、あのドロシーとかいうエルフは毎日抱きしめてもらっているのに私だけしてもらえないのはとてもずるいという理由です」


 .....あー、なるほど。確かに聖女様とドロシー先生は仲が悪そうな感じがしたし、その相手だけ毎日のように僕のハグを独占していると思うと確かに嫌な気持ちになる。


「この傷ついた心、癒してくれませんか?」

「分かりました」

「ありがとうございます」


 腕を広げて聖女様を抱きしめる。


 ゆっくりと会っていなかった一週間の思いとごめんなさいの思いを込めて僕の持っている最大を出して聖女様を癒す。


 聖女様、凄く気持ちよさそうな顔をしてくれてる。もっと癒して気持ちよくなって欲しいな。


 もっと、もっと.....。


 夢中になって聖女様を癒していると、いつの間にか顔が蕩けていき、聖女様らしからぬだらしない顔になってしまい、最後には腕の中でガクガクと震えて気絶してしまった。


 もしかしなくても、やりすぎちゃった?



 

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