第11話 自意識

「おはようございます、ゾーイ様」

「..........うん、おはようアリス」

「いい朝ですね」

「そうだね」


 アリスがこの部屋にいることを咎めるのはもう無駄だとわかっているのでそれはしないことにしよう。


 相変わらず何も問題がないという顔をしているし。


「まだ時間に少しだけ余裕はありますがゆっくりなさいますか?」

「いや、起きることにするよ」

「それでは、お着換えのほうをお手伝いさせて..........」

「いいからね?いつもの場所へ行ってて」

「..........ちっ。了解しましたゾーイ様」


 流れでも持っていかれそうになるところだったけれど、どうにか軌道へと戻したが今舌打ちしなかった?気のせいだよね?


 ベッドから、体を起こして日航の光を浴びてから着替えを速やかにする。


 アリスが扉の隙間からこちらを見ていることは大目に見てあげようと思う。というか慣れた。


 着替えを済ませてから食堂へとアリスとともに行く。


 前まで遠くから眺めているだけだった女子たちが僕におはようございますって挨拶をしてくれるようになった。


 この学校に段々と受け入れられている実感があって少しうれしくなるし、挨拶されるとやっぱり気分がいいよね。


 いつかはクラスの人では無くてもいいから一緒に食事ができると嬉しいなって思う。


「私だけでは不満ですか?」

「ん?何が?」

「今、いつかはアリス以外の誰かとも食事出来たらいいなとか考えていませんでした?」

「うっ。..........思っていました」

「シクシク、私はとっても悲しいです。ゾーイ様にすぐに飽きられてしまう悲しいメイドです。まだ一度も夜伽をさせてもらっていないのに」

「アリスに飽きるなんてそんなことないよ。みんな僕のことを段々と受け入れてきてくれているから、いつかは食事出来たらなって思っただけでアリスがいらないだなんてそんなこと思うはずがないよ」


 僕がそういうとパッと表情を明るくさせてスプーンを手に取り、あーんをして甲斐甲斐しく世話を焼き始めるアリス。


 ここで拒否したりするとまたさっきのようになるのは過去の経験から分かっているのでここは素直に受け入れる。


 っていうか、アリスはなんで僕の思考をナチュラルに読んでいるの?たまに妹のシュヴィとかもするし。


 そしてそれがさも当然のような反応をするから僕がおかしいのかと思ってしまう。


 そんなこんなで朝食を終え、準備を済ませてから学園へと向かう。


 アリスとゆったり話しながら通学路を歩くこの時間は何気に好きな時間である。


 アリスは特に僕が話を振らないと喋らないし、僕も無理にアリスと話そうとは思わないから特に気まずい空気なんかも流れるわけもなく、ただ心地よい空間が生まれる。


 ゆったりと登校してから、クラスの人から挨拶をされつつ席に着き朝のショートホームルームまで暇なのでアリスとヴィクトリア様と三人でいつものように話していると、僕たちのほうへと近づいてくる人がいた。


「ねぇ、あなた」

「何ですか?エリザ様」

「ふふっ、名前を憶えているなんていい子じゃない。ますます……」

「ゾーイ様から離れてください。皇女だろうが何だろうがゾーイ様に無礼を働くというのなら…」

「アリス、ストップ」


 アリスがエリザ皇女に失礼を働きそうになっていたため、止める。


「それで、何のようでしょうか?」

「放課後、この場所に。出来ればそこのワンちゃんは連れてこないでほしいですわ」

「誰が犬ですか!!」

「それでは、また」


 そう言い放って去ってしまったので、アリスを犬と言ったことに対して少しも言い返すことができなかった。


 それにしても、エリザ様が僕に何の用だろう。前に僕を見ていたことと何か関係があるのかな?


 まぁ、どちらにしろ何か良くないことのような気がするのは僕だけではないだろう。


「ゾーイ様、勿論私も連れて行ってくれますよね?もし私を置いて行ってゾーイ様に何かあったとき、私は自分を許せなくなって自殺してしまうかもしれませんよ?」

「自殺はしないでね?お願いだから。でも、アリスは連れてこないでって言われちゃったからな。僕だけにしか話すことができない何か大事な話かもしれないし」

「ゾーイ様にしか話すことができない大事な話って何ですか?」


 確かに自分で言っていてよく分からない。僕だけにしか話せない大事な話って………こ、告白とか?


「もし、あの女がゾーイ様に雌犬のように発情してゾーイ様に告白などしたのならば速攻で風魔法で真っ二つです」

「そんなことしちゃだめだよ?それと、多分、皇女様は結構強いしもしかしたらアリスがケガするし、不敬罪とか色んな罪に問われかねないからやめようね」

「分かっていますけれど!!それでも、女にはやらなきゃいけない時があるんです!!これは、皇女、メイド関係ありません。女と女のぶつかり合いなんです!!」


 熱くなっているアリスを宥めつつ、エリザ様の件について考える。


 自意識過剰とかでなければ本当にもしかすると、告白の可能性もなくはないと思う..........自意識過剰じゃなければの話だけれどね!!


 前世では全くはモテなかったわけではないけれど、今世ほどモテていたわけではないので自意識過剰になっても仕方がないと思う。


 僕自身だってこの神様に作ってもらった顔立ちは異常なほど格好よく見えるしいまだに少しだけ自分じゃないような感覚もあるので仕方がないと思いたい。


 エリザ様にもモテてしまうのかとそんなことを心の隅でほんの少しだけ思っていた。思ってしまっていたんだ。


 


 

 







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