派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
1.鏡に映る自分は
真っ赤な髪に、整った顔立ち。鏡に映る自分は、昔とはまったく違う姿をしている。
違う姿といっても、髪を染めたとか、整形をしたとか、そういうことではない。私には、前世の記憶があるのだ。
「そう……私ははっきりと覚えている。かつて、私はまったく違う姿をしていて、まったく違う世界で暮らしていた……」
私は、かつて日本という国に暮らしていた。そこは、私が今暮らしている国とは違う国だ。
だが、違うのは国だけではない。恐らく、世界も違う。この世界には日本という国はない。しかも、歴史も人々の生活も、私が知っているものとは異なっている。
だから、私は違う世界に来たと解釈した。遥か未来の世界とも考えられるが、どちらかといえば、正しそうな方を結論としたのだ。
「……だって、今の私は、まるで……」
私が結論を出したのには、もう一つ理由があった。それは、私自身の容姿と名前が関係している。
この真っ赤な髪と顔に、私は見覚えがある。アルフィア・セントルグという名前もそうだ。私は、今の私を知っている。
「でも、そうだとしたら、どういうことなのかしら……?」
私が暮らしていた世界には、ゲームというものがあった。今の私は、とあるゲームの登場人物にそっくりなのである。
そのゲームとは、『Magical stories』という恋愛シミュレーションゲームだ。魔法学園という場所を舞台にしたそのゲームの登場人物、アルフィア・セントルグは、正に鏡に映っている私なのだ。
「アルフィア・セントルグ……『Magical stories』の悪役令嬢」
アルフィアという人物は、『Magical stories』の悪役である。攻略対象、主人公が恋愛する対象の一人であるバルクド・エルキディスの婚約者であり、二人の恋の邪魔をしてくる人物なのだ。
はっきりと言って、アルフィアはまともな人物ではない。ゲームの中の彼女は、非常に悪辣な手段で主人公を追い詰めていた。邪悪な人物、それがゲームをした私や、その他大勢の評価である。
「その末路は……」
そんなアルフィアの末路は、明るいものではない。悪辣な手段を取ったので、当然のことなのかもしれないが、彼女は罰を受けたのだ。
恋愛ゲームには、様々なルートがある。ゲームをプレイする人の選択によって、物語は違う結末を迎えるのだ。
だが、彼女の結末に関しては、そのほとんどが死に繋がっている。国外追放、あるいは極刑。その罪を暴かれた彼女は、とても重い判決を下されるのだ。
「それは、できれば避けたいことよね……」
当然のことながら、私は国外追放や極刑などといった残酷な結末を迎えたいとは思っていない。
これから私が、あのゲームと同じような道を歩んで行くのかはわからない。だが、もしそうならば、そういった末路は絶対に避けたい所だ。
「ただ……私も、そこまでよく知っている訳じゃないのよね……」
しかし、その末路を避けるためには少し問題があった。それは、私がアルフィアの末路の全てを知っている訳ではないということである。
実の所、私は『Magical stories』の全てのルートをプレイした訳ではない。バルクド・エルキディスのルートしかクリアしていないのである。
これは、私の恋愛シミュレーションゲームをする時の悪い癖のようものなのだが、私は一つのルートをクリアすると、他のルートをしないことが多いのだ。なんというか、それで満足してしまうというか、やる気がなくなってしまうというか、そういうことがあるのだ。
「わからないことが多すぎるのよね……」
アルフィアの末路について知っているのは、友人に聞いたり、インターネットで調べたりしたからである。決して、自分でプレイした訳ではない。
そのため、どうしてアルフィアがそんな末路を辿ったのか、その過程がわからないのである。
今の私にとって、結末だけがわかっていることはあまり良いことではない。過程がわかっているなら、その結末に辿り着かないように行動できる。だが、わかっていないなら、それはできない。どう行動するのか、わからないのだ。
「でも、わかっていることはある」
だが、それでもわかっていることはある。例えば、プレイしたルートのことはわかっているため、その行動は避けることができるだろう。
そして、そのルートからアルフィアがどういう人間なのかもわかっている。それなら、そのアルフィアとは正反対の人間になれば、彼女が取った行動も避けられるはずだ。
「アルフィアは、派手好きな公爵令嬢……それなら、私は地味に生きていけばいい……」
アルフィアは、派手好きで高慢で豪快な性格だった。それなら、私は地味で謙虚に穏やかに生きていけばいいだろう。
それは、そこまで難しいことではない。なぜなら、かつての私はどちらかというと、そういう性格だったからだ。
以前の私と同じように生きる。今の私にできるのは、きっとそういうことなのだろう。
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