6.彼女のうわさ
「リオーブ様のことは、仕方ありませんね……もう、気にしないことにします」
「あなたも、大変ですね……まったく、あいつは本当に……」
「いいのです、バルクド様。別に、彼は悪いことをしている訳ではありません。入学式に間に合えばいいのですから、私が心配をし過ぎているというだけです」
「しかし……」
バルクド様は、リオーブに対して少し怒っていた。親友であるからこそ、婚約者を心配させる彼が許せないのだろう。
だが、リオーブ様が悪いことをしている訳ではないという意見も、理解できる。別に、まだ入学式は始まっていない。それに遅刻するなら問題だが、この時間にきていなくても、それは咎められるようなことではない。
もっとも、それは理論上の話だ。現実としては、集合時間の少し前に来ていなければ、心証は悪くなるだろう。
「バルクド様、本当に大丈夫ですから」
「……あなたが許しているというなら、これ以上僕があれこれ言うのもよくありませんね。わかりました。僕も、気にしないことにします」
ファルーシャの説得により、バルクド様は落ち着いてくれた。
多くの場合、彼はリオーブの行いに怒っている。リオーブのルーズな一面は、彼にとってはあまり快くないことであるようだ。
それなのに、二人はとても仲が良い。考えてみれば、それはとても不思議なことであるように思える。
「そういえば、お二人は今年入学するとある平民のことをご存知ですか?」
「とある平民? 誰か、特別な人でも入学するのですか?」
そこで、ファルーシャが話を変えてくれた。恐らく、気を遣ってくれたのだろう。バルクド様が、これ以上リオーブのことで心を痛めないようにと。
彼女の発言に対して、私はとある人物のことを考えていた。特別な平民、それはもしかして私がよく知っている彼女なのではないだろうか。
「メルティナさんという平民がいるそうなのですが、なんでも彼女はかなり高い魔力を有しているそうです」
「そうなのですか? まあ、平民で魔法学園に入学するくらいですから、優秀であることは当然なのかもしれませんが……」
「その当然以上の力を、彼女は持っているということです。千年に一度の天才と称されることも、あるそうですよ」
「千年に一度ですか……確かに、それはすごい人ですね」
ファルーシャは、私の予想通りメルティナのことを話していた。わかっていたことではあるが、やはり彼女もこの魔法学園に入学してくるのだ。
その事実を聞いて、私の体は少し震えていた。別に彼女を怖がる必要などないはずである。彼女を虐めなければ、何も問題はない。そもそも、アルフィアの破滅は因果応報なのだから、彼女に恐怖するのはお門違いである。
だが、それでも怖いと思ってしまう。それは、私がこれから辿る可能性がある運命に対する恐怖なのかもしれない。
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