7.時間ぎりぎりで

「メルティナさんは、かなり優秀な人間であるようです。一部の貴族達は、彼女に対して敵意を持っているそうですよ」

「敵意ですか……それは、物騒ですね」

「きっと、自分達の地位を脅かされるのではないかという恐怖があるのでしょうね。平民が成り上ってくるのが気に入らないという貴族は、残念なことに少なくありませんから」

「そうですね……」


 ファルーシャの言葉に、私は少し微妙な気持ちになる。『Magical stories』の本編では、彼女の言う人物の役割はアルフィアが担っていた。大々的に彼女を虐めていた諸悪の根源だったのだ。

 もちろん、今の私はそうなるつもりはない。だが、それを聞くとやはり色々と複雑な気持ちになってしまうのだ。


「さて、そろそろ入学式の時間ですね……リオーブ様は、そろそろ来たのでしょうか……」

「あ、そうですね……」

「流石に、あいつももう来るとは思うのですが……」


 色々と話している内に、入学式の時間が迫ってきていた。リオーブ様は大雑把な人物ではあるが、遅刻するような人ではない。ぎりぎりではあるが、時間には間に合う人なのである。

 だから、そろそろ来るはずだ。そう思って辺りを見渡した私達は、一人の見知った男性を見つける。


「おっと、勢揃いだな……」

「リオーブ、またお前はこんなぎりぎりに……」

「そんなに固いこと言うなよ、バルクド。別に、時間には遅れていないのだから、いいだろう?」


 リオーブは、不敵な笑みを浮かべながら、こちらに近づいてきた。

 何かを注意するバルクド様を受け流すリオーブという図は、いつも見る光景である。この二人にとって、このやり取りは日常茶飯事なのだ。

 リオーブは、いつもこういう風にぎりぎりなことをする。彼はいつも、言い訳ができるようなことをするのだ。

 今のように、ぎりぎりの時間に来るのもそうなのだが、彼の理論はいつも心情的には少し首を傾げたくなる部分もあるが、間違っている訳ではない。そんな少し厄介と思えるようなことをするのが、彼なのだ。


「ファルーシャさんも、お前のことを心配していたんだぞ?」

「……そうか。ファルーシャ、それは悪かったな」

「あ、いえ、気にしないでください。私が心配し過ぎていただけですから」


 しかし、ファルーシャの話が出た瞬間、リオーブは謝罪した。流石に、婚約者を心配させたことについては、申し訳ないと思っているようだ。


「さて、これから誠心誠意謝罪の言葉を述べていきたい所なんだが、生憎もう入学式が始まってしまう。ここで話していると間に合わなくなってしまうぜ」

「お前は、いつもそれだな……そうやって、予定があるからといって逃げるのは、卑怯だとは思わないのか?」

「なんと思われてもいいさ。だが、入学式が迫っているのは紛れもない事実だ。俺は遅刻したくない。早く会場に行くとしようぜ?」


 リオーブは、バルクド様に対してまたも不敵な笑みを浮かべていた。あの笑みは、彼の得意技だ。

 言っていることも、彼の常套句である。時間がないから、後にしよう。時間がないから、この話はやめよう。そうやって煙に巻くのも、いつもの流れだ。

 質の悪いことに、本当に入学式まで時間はない。そのため、私達は入学式の会場に向かうのだった。

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