36.事情を話しても

「……キャロムさん、ドルキンス様、お二人に話しておきたいことがあるのです」

「メルティナさん……何かな?」

「今回の事件の事情に関して、お二人が知らないとある事実があるのです……いえ、これは事実というよりも、私の推測になるのですが」


 そこで、メルティナがそのように切り出した。その表情と言葉で、私は彼女が何を言うつもりかを悟る。


「……聞かせて欲しい。このままもやもやした気持ちのままというのは、どうにも気持ちが悪い。この事件に関わることなら、聞かせて欲しいな」

「既にお二人とも知っている通り、私はレフェイラ率いる令嬢達に目をつけられていました。ただ、私は彼女達の裏に何者かの存在があったと思っているのです」

「何者かの存在? どういうことだい?」

「レフェイラは、何者かに操られていた疑いがあります。彼女は、まるで何者かに怯えているかのような態度で私に接してきました。私の感覚の話なので、実証できるものはありません。あくまでも、私がそう思っているというだけの話です」

「……実際に彼女と接してきたのは、メルティナさんだ。当事者が感じたことなのだから、それはそれだけで信用できることになると思うよ」


 私が予想していた通り、メルティナは事件の黒幕の存在について話しはじめた。

 時が巻き戻ったという話は、あまりに突拍子もないことであるため、人には話しにくいことである。

 だが、黒幕の存在がいるという話に関しては、別に人に話しても特に問題はない。恐らく、メルティナはそう思ったのだろう。


「しかし、黒幕の存在か……そんな人物がいるなら、まず間違いなく今回の事件に絡んでいると思うんだけど……」

「それを示すものは、何も出てきていません。だから、私も自分の推測に対して、少し自信が持てなくなっているのです」


 実際に事件に巻き込まれたこの二人に関しては、黒幕である可能性も薄いという考えも、メルティナの中にはあるかもしれない。

 もっとも、仮に相手が黒幕だったとしても、今回のように事実を伝えることに関してはそれ程問題があることではないだろう。

 メルティナは、レフェイラの取り巻きの令嬢達に黒幕の存在について聞いている。既に、この事実は多くの人々に伝わっているのだ。

 彼女達が黒幕について知らなかったとしても、黒幕は彼女達の動向をほぼ確実に窺っているだろう。最早、私達が黒幕について調べていることは、隠しようがないことであるはずだ。だから、それ程問題ないことだと思うのである。


「……メルティナさん、こんな時に言うことではないかもしれないけど、色々とごめん」

「え?」

「僕は、あなたに対して勝手な敵意を向けた。それを謝っておきたかったんだ」

「……そうですか」


 そこで、キャロムはメルティナに謝罪をした。落ち着いた結果、魔法の実技の授業での件を申し訳ないと思うようになったのだろう。

 それは、いいことだ。キャロムにどんな事情があったとしても、それでメルティナを責めていい理由にはならないのだから。

 ただ、私は少し気になっていた。なんというか、この会話に違和感があるのだ。何か、大事なことを見落としているようなそんな感覚が、私を悩ませてくる。


「いやあ、二人が仲直りして、一安心だな。あの魔法の実技の授業の時は、どうなるかと心配していたものだが……」

「魔法の実技の授業……? そうだわ、どうして気づかなかったの!」

「おお? アルフィア嬢、どうしたんだ?」


 私は、あることに気がついた。魔法が学校で検知されたのは、レフェイラとキャロムだけ。その前提を覆す事実があったのである。

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