35.事件の犯人は

 私は、メルティナとドルキンスとともに保健室に来ていた。ここには、私達にゆかりがある二人の人物がいる。

 その一人であるキャロムは、ベッドの上で身を起こしながら、私達を迎えてくれた。異空間から出た直後に比べると、彼の顔色はかなりよくなっている。


「キャロム、調子はどう?」

「もう平気さ。それより、僕が寝ている間に何があったのかを聞かせて欲しいな」

「ええ、もちろん話させてもらうわ」


 私とドルキンスは、魔力の使い過ぎで保健室に運ばれたキャロムと意識を失ったレフェイラの分まで、教員達から事情を聞かれていた。

 事情を話すにあたって、メルティナのことも話さなければならなくなり、結局は彼女やレフェイラの取り巻き達まで呼んでの事情聴取となった。

 それが終わって、私達はキャロムの所に来たのである。心配だったし、彼も事情を知りたがっていると思ったからだ。


「結論から言うと、今回の事件の犯人はレフェイラということになったわ」

「レフェイラということに? 彼女の単独犯ということになったのかい?」

「ええ、そういうことになったわ」

「そんな馬鹿な……」


 私の言葉に、キャロムは困惑していた。それはそうだろう。今回の結論は、あの異空間が強力なものだと実際に感じていた彼が一番信じられない結論であるはずだ。


「私も信じられないのだけれど、状況的に考えて、彼女が犯人であるということらしいわ。キャロムはこの学校の結界について詳しいみたいだけど、魔力の検知についても知っているのかしら?」

「魔力の検知? それは知らないことかもしれない」

「この学校の結界は、魔力を使った時にその魔力を保存するそうなの。どんな魔法を使ったかまではわかないそうだけど、どんな魔力だったかは記録されるらしいわ。魔力というものは、個人によって異なることは知っているわね? その魔力が、学校側で記録されていることも」

「ああ……まさか」

「ええ、多分、あなたが思っている通りよ。記録された魔力とレフェイラの魔力が一致したの。この学校内で魔法を使ったのは、彼女とあなただけ。他の魔力は検知されていないそうよ」

「なっ……」


 私の説明を受けても、キャロムは信じられないというような顔をしていた。

 その気持ちはよくわかる。この事件に関わった私達からすれば、この結論はとても納得できないものだ。


「レフェイラは、メルティナを陥れるために、私を迷宮魔法で捕えた。それがばれたため、諦めて自らに魂奪取魔法をかけた。それが、教員達の結論よ」

「そんなはずはない……レフェイラという令嬢が一人でそんなことをできるのなら、彼女は天才と呼ばれているはずだ。彼女がもし力を持っているというなら、それを隠す理由もないだろうし、色々と変だ」

「……そうね。変だと思うわ」

「……一体、どういうことなんだ。なんだか、訳がわからない」


 教員達の出した結論は、納得できるものではない。しかし、恐らく、事実としてあるのは、校内で魔法を使ったのはレフェイラとキャロムだけということだ。

 その事実がある限り、彼女が単独犯であるという事実は覆せないだろう。魔法を使わずして協力したとも考えられない訳ではないが、その場合はどうやって魔力を高めたのかわからない。そんな方法は、誰も知らないことなので、証明することも難しいだろう。


「隠れて魔法を使ったのかしら?」

「……その可能性は、もちろん考えられることだ。ただ、魔法というものは強力な程魔力が大きくなるものだ。もし仮にあの迷宮魔法を作れる程の魔力があったとしたら、それを隠すのはかなり難しいものになる」

「そうなのね……」

「それに、学園の結界はかなり強力だ。魔力の検知についても、恐らくかなりの精度だろう。その中で魔法を隠すというのは、かなり難しいはずだ」


 隠れて魔法を使うことは、できない訳ではないようだ。しかし、今回の場合、それは難しいことであるらしい。

 それなら、やはりレフェイラが犯人ということになるのだろうか。納得できない結論でも、事実が示すことを私達は受け入れなければならないのだろうか。

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