34.彼女にあったこと

「あなたがキャロムさんの所に行ってからすぐに、私の前に例の令嬢達が現れました。以前と同じように、私に難癖をつけてきたのです。それで、ついて来るように言われて、私はそれに従いました。彼女達を操っている人間をあぶりだす好機だと思ったからです」

「好機って……」

「あの人達は、アルフィア様がいない時を狙っていたようです。公爵令嬢であるあなたが近くにいては手出しできない。そう考えていたそうです」

「なるほど……あれ? メルティナ、あなたまるで彼女達から直接それを聞いたような口振りね?」

「ええ、実際に彼女達から直接聞きましたから」

「え?」


 メルティナは、なんてことがないような口調ですごいことを言ってきた。

 彼女達から、彼女達の内情を聞いた。それは、驚くべきことである。

 私達と彼女達は、敵対関係にある。そんな彼女達から、事情を聞くなんて、普通はできないはずだ。


「どういうこと? 彼女達が、素直に教えてくれるとは思えないのだけど……」

「……少し脅してみた所、結構簡単に白状してくれました。まとめ役がいなかったのもあるのでしょうが、強気に出たこちらに対抗する程の気概は、彼女達にはなかったようです」

「そ、そうなのね……」


 どうやら、メルティナは彼女達を一人で退けたようである。確か、結構な人数がいたと思うのだが、それだけいても彼女の気迫に勝てなかったということだろうか。

 ただ、私としては納得できることだ。ゲーム終盤の彼女は、アルフィアの取り巻きに対して堂々と言い返すようになっていた。そのため、今回の彼女の対応は考えてみれば、当然のことだったのである。


「それで、私は彼女達を問い詰めていたのですが、いくら聞いても彼女達は黒幕の存在など知らないというだけでした。首謀者はレフェイラ様。それが彼女達の主張です。恐らく、それは本心から言っている。彼女達の様子に、私はそう思いました」

「まあ、そんな風になっている時に、嘘をつくとも考えにくいわね」

「ええ、それで、私はそれならそのレフェイラ様に話を聞こうと思ったのです。しかし、彼女達もレフェイラ様の居場所は知らないと言われて……なんでも、用事があったそうですが、どうやらその用事というのは、私が思っていた以上に大変なことだったようですね」

「ええ、実はそうなのよ」


 メルティナは、私がいない隙に令嬢達に連れて行かれた。恐らく、レフェイラはそこに私がいなかいように足止めしていたということなのだろう。

 恐らく、そこにはメルティナが予測している黒幕が関係しているはずだ。あの迷宮は、中にいる者が何もできなければ死に至る程に強力なものだった。それを彼女が一人で作れるかは、少々疑問である。

 だが、黒幕の協力があったなら、それも可能かもしれない。そもそも、レフェイラがここまでする動機も薄い気がする。そこに何者かが絡んでいる可能性は充分あるだろう。


「それじゃあ、こちらの事情を話すわね?」

「ええ、お願いします」


 とりあえず、私はメルティナに事情を話すことにした。私の推測も含めて、彼女に全てを話しておくことは、大切なことだろう。

 こうして、私はメルティナに今までのことを話すのだった。

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