116.大きな物音

「……うん?」


 メルティナの説得を終えてから、私はいつも通りに眠りについていた。

 だが、何か大きな物音がしたような気がして、ゆっくりと目を覚ます。


「……地震?」


 辺りは、まだ真っ暗だった。ということは、まだ夜は更けていないということだろう。

 私が感じた物音は、なんだったのだろうか。なんというか、地響きのような感じだったので、地震でも起こったのだろうか。


「まただ……」


 そんなことを思っていると、またその音が響いてきた。だが、揺れている感じはまったくしない。まだわからないが、地震の線は薄そうだ。

 そう思っている内に、大きな物音はまた鳴り響く、一定のリズムで、その音は鳴っているようだ。


「……まるで、何かの足音みたい」


 そこまでわかって、私はその音に対してそんな感想を抱いていた。

 よく聞いてみると、その音はどんどんと大きくなっているような気がする。

 まさか、本当に足音なのだろうか。しかし、こんなに大きな足音を、一体誰が出せるというのだろうか。


「大きな足音?」


 そう思った時に思い出したのは、メルティナとの話だ。

 正確には、彼女と話した時に見た騎士団からの手紙だろうか。岩の巨人、彼らが戦ったその操り人形なら、このような足音が出せるのかもしれない。


「まさか……」


 私は、急いでカーテンを開けた。外の様子を確認するためだ。

 外は、まだ暗闇に包まれている。だが、それでもわかった。こちらに、迫ってくる大きな影があるということに。


「何、あれは……」


 ゆっくりと足音を立てながら、こちらに向かってくる影があった。

 それは、どれくらいの大きさなのだろうか。遠くからのため、よくわからないが、少なくとも人間よりも遥かに大きい。

 だが、その影は人の形をしているように見える。所々歪な凹凸はあるが、手足があって顔もあるため、人型といっても差し支えないだろう。


「そんなことを考えている場合じゃない」


 そこで、私は思考を切り替える。あの人型が、何者なのかなんて、今はどうでもいいことだ。

 問題は、あれがこちらに向かってきているということである。少なくとも、何かしらの行動は起こさなければならないだろう。


「メルティナに……いや、それよりも、まずは避難が先?」


 私は、これからの行動を考える。メルティナの元に向かうべきか、それとも避難を誘導する方が先か、少し迷ったのだ。

 だが、すぐに結論は出た。なぜなら、部屋の外から避難を呼びかけるような声が聞こえてきたからである。

 考えてみれば、他の人達も、当然あれには気づいているだろう。それなら、避難はそちらに任せていいはずだ。

 こうして、私はメルティナの元に向かうことにするのだった。

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