44.同じ状態

 私は、メルティナとリオーブとともに屋上に来ていた。二人と、色々と話すためだ。

 昨日の夜、私は夢を見た。それにより、予定よりも話すことは増えた。そのため、早急に話を進めなければならない。


「つまり、私達は事件の裏に黒幕がいると考えている訳です」

「なるほど、そういうことだったのか……」


 とりあえず、私達はリオーブにレフェイラの裏に黒幕がいるという考えを話した。

 キャロム達にも明かしたことと彼と話して考えたこと。それらをまずは話したのである。

 だが、リオーブにはもう少し踏み込んだ話をするつもりだ。彼に関しては、そちらの方がいいはずだ。なぜなら、彼には時が巻き戻る前の記憶の断片があるようなのだから。


「リオーブ様、ここから先は、少し驚くようなことを言います。だから、覚悟しておいてください」

「驚くようなこと? なんなんだ? それは?」


 昨日、寝る前にメルティナとは既に話し合っている。リオーブに全てを打ち明けてもいいか、確認したのだ。

 少し悩んだが、彼女はいいと言ってくれた。真実を知るために、私達はリオーブに事情を打ち明けるのだ。


「リオーブ様、まずは私から話します。私には、とある記憶があります。この世界で過ごした記憶があるのです……この世界で生まれて、この学園で一年間を過ごした記憶が……」

「何?」

「この魔法学園で一年を過ごしたある時、私の時は巻き戻りました。人生をやり直すことになったのです」

「それは……」


 リオーブは、メルティナの言葉に驚いていた。だが、こちらの事情は彼にとっては理解できるはずだ。なぜなら、彼は二つの記憶を持っているのだから。


「実際に時が巻き戻ったのか、それともそれは私の夢だったのか。今まで、私はそれに対して懐疑的でした。しかし、あなたの話を聞いて、私は確信しました。自分の時が巻き戻ったのだと」

「なっ……そんなことがあるのか。いや、しかし、辻褄が合う。俺とあんたの二人が夢を見ていたと考えるよりも、そっちの方が自然か」

「ええ、そうです。だから、この世界は一度巻き戻っていると考えるべきでしょう」


 リオーブとメルティナ、二人の話で、この世界が一度巻き戻っていることは確定したようなものだ。流石に、二人も人間が違う記憶を持っているのだから、それはまず間違いないだろう。


「次は、私の事情をお話します」

「なんだ? メルティナとは、別の事情なのか?」

「ええ、実はそうなのです。その……メルティナ、実は昨日の夜、私はあることを思い出したの。つまり、私はこれからあなたにも話していないことを話すわ」

「あ、そうなのですね」


 メルティナが事情を話し終えたので、次は私の番だ。

 私の事情は、メルティナよりも複雑である。昨日のことも合わせると、かなり理解しがたいものになるだろう。

 さらに、私は今から推測を話すつもりだ。この事件の黒幕について、私は一人の人物を思い浮かべている。それが正しいかどうか、二人にも考えてもらいたいのだ。


「……私には、前世の記憶があります。こことは違う世界の日本という国で、暮らしていた記憶があるのです」

「なんだって?」

「その世界では、こちらの世界のことはゲームという物語の形で記されていました。その中でのアルフィアは、今の私とはまったく異なる性格をしていました。それは、時が巻き戻る前もそうです」

「アルフィア様は、時が巻き戻る前は、レフェイラ様のような立場の人間でした。今の性格とは、正反対の性格だったといえるでしょう」

「……なんだか、訳がわからないな」


 私達の言葉を聞いて、リオーブは頭を抱えていた。それは、当然の反応である。こんなことをいきなり言われても、訳がわからないのが普通だ。

 しかし、彼には理解してもらわなければならない。それはきっと、彼のお姉様を助けることに繋がるのだから。


「かつてのアルフィアは、その性格が原因で、悲惨な末路を辿りました。そんなアルフィアを知っているからこそ、私はこういう性格になったのです。彼女と同じ間違いを犯さないように」

「少し待ってくれ。時が巻き戻る前のアルフィアとあんたは、同じアルフィアなのか? 話を聞いていると、なんだかまるで別人のようなんだが……」

「そこが、重要な所なんです。メルティナ、あなたも知らない事実は、それに関係しているの」


 リオーブは、私とアルフィアのずれに対して違和感を持っているようだ。それは、そうだろう。私は、そういう風に話しているのだから。

 私とアルフィアは別人。今の私は、そういう観点から話している。昨日の記憶によって、そう話さざるを得なくなったのだ。

 いや、そもそも、私はアルフィアと自分を最初から同一視できていなかったような気がする。どうしても、別の存在のように認識していた節があるのだ。

 メルティナの話を聞いた時もそうだった。あの時の違和感は、私が忘れていたあの記憶がもたらしたものだったのだろう。


「結論から話させてもらいますが、私はアルフィアではありません。アルフィアの体に別の世界の魂が入ったのが、私なのです」

「何? それは……どういうことだ?」

「原因はわかりませんが、私は別の世界から魂だけの状態で、こちらの世界へと移ってきました。そこで、私は魂が抜けたと思われるアルフィアの体に引き寄せられました。そして、今の私ができあがったのです」

「そんな……」


 リオーブもメルティナも、私の言葉に驚いていた。それは、当然の反応だ。

 しかし、重要なのは私が別の世界からやって来たことではない。魂が抜けていたアルフィアの方だ。

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