15.生徒会長の弟
「はあ、これから授業が始まるというのは、中々に憂鬱だな……あんたもそうは思わないか?」
「え?」
ホームルームが終わって、私は隣から声が聞こえてきた。しかし、それはメルティナの声ではない。彼女とは反対側から男性の声が聞こえてきたのだ。
私は、ゆっくりとその報告を向く。そこには、長い金髪の男性がいる。
「俺は、昔から勉強というものは苦手なんだ。体を動かす方が気持ちがいいしな……まあ、だから、魔法の実技に関しては、結構楽しみではあるんだが……」
「そうですか……」
隣の男性は、私に対してとても親し気に話してきた。
しかし、私と彼は別に親しい訳ではない。それでもこのように話せるのは、彼の性格故なのだろう。
といっても、別に私達はまったく知らない間柄という訳ではない。私達は、お互いに貴族として知っているのだ。
「ドルキンス様の言っていることは、わからない訳ではありません。ですが、大切なことですよ?」
「まあ、そうだな……わかってはいるんだが……」
彼の名前は、ドルキンス・ロンバス。ロンバス公爵家の令息である。その名の通り、彼はこの学園の生徒会長であるディゾール様の弟だ。
彼も、ゲームの登場人物である。ただ、私は彼のことをよく知らない。彼が絡んでくるであろうディゾール様のルートを、私はプレイしていないからだ。
「……まあ、兄上も言っていたしな。この三年間を無駄にしないために、しっかりと勉学に励む。それはきっと、大切なことなんだろうな……」
「えっと……そう、ですね」
ドルキンスは、基本的に明るい人物である。それが、私がゲームをしていて彼に覚えた印象だ。
彼は、基本的には明るい。つまり、例外的にすごく暗くなる時がある。
それは、兄のことを話す時だ。ドルキンスは、ディゾール様に対してコンプレックスを覚えているようなのだ。
「だが、俺はどちらかというと、キャロム君の言葉の方に賛成しているんだ。才能がない凡人が努力しても、無駄なんじゃないかとな……」
「ドルキンス様……」
「……おっと、すまなかったな。変なことを聞かせてしまった。どうか、忘れてくれ」
「あ、はい……」
ドルキンスは、私に対して明るい笑顔を向けてきた。それが心からの笑顔でないことは、明らかである。
そんな彼に対して、何を言えばいいのか。それが私にはわからなかった。
私は、ふとメルティナの方に視線を向ける。彼女は、次の授業の教科書を読んでいた。
ゲームの主人公である彼女ならば、ここでドルキンスに対して何かいい言葉をかけてあげられたのだろうか。
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