100.割り切れないこと
朝早く、私は学校の方へと向かっていた。
最近は、いつも早めに学校に行っている。ディゾール様が、朝練をすると言っているからだ。
シャザームの件を騎士団に任せると決まってからも、私は訓練を受けている。それにより、日に日に魔力が増していることは実感できている。
ただ、やはり毎日訓練するというのは中々に辛い。特に朝のまったりとした時間がなくなるのは、寂しいものである。
「あれ?」
学校に向かおうと女子寮から歩いていた私は、遠目にとある人物を見つけた。
それは、リオーブである。彼は、学校の正門付近に何故か立っているのだ。
「何をしているんだろう?」
とりあえず、私はリオーブの元に行くことにした。何をしているか気になったのと、単純に知り合いに朝の挨拶をしようと思ったからだ。
リオーブは、すぐにこちらに気づいた。しかし、特に動こうともしないので、別に近寄っても問題はなさそうだ。
「リオーブ様、おはようございます」
「ああ、おはよう。随分と早いな」
「ええ、ディゾール様との訓練がありますから」
「ああ、そうか……そういえば、そんなことをしているんだったな」
私の言葉に、リオーブは笑った。しかし、その笑みはどこか寂しそうに見える。
何か嫌なことでもあったのだろうか。そう思って、私は一つ心当たりがあることに気がついた。
「リオーブ様、もしかしてシャザームのことを気にしているんですか?」
「なんだ、ばれたか」
リオーブは、自嘲気味な笑みを浮かべていた。どうやら、私の予想は当たっていたようである。
「……あの暗黒の魔女が、まだこの世界に生きていると聞いて、俺は正直はらわたが煮えくり返ったんだ。あいつだけは許せない。心からそう思ったんだ。そんなあいつを騎士団に任せる。そのことに、俺はどうすればいいかわからなくなっているんだ」
「リオーブ様……」
リオーブは、暗黒の魔女に婚約者を操られ、姉の魂を取られた。大切な人達の人生を滅茶苦茶にされたのである。
だからこそ、暗黒の魔女を許せなかった。できることなら、自らの手で彼女を滅ぼしたかったのだろう。
だが、騎士団がことにあたるということは、彼が手を出すことはできなくなったということだ。それが、リオーブは悔しいのだろう。
「もちろん、わかっていはいるんだ。これが正しいことだということは……反対するつもりない。騎士団に任せられるなら、それが一番だと思う」
「でも、割り切れないんですね……」
「ああ、そういうことになるな……」
恐らく、リオーブは心の中で整理がついていないのだろう。
自分の怒りとこの国の摂理などといった事柄が、今彼の中では混ざり合っているのだ。
それは、簡単に割り切れることではない。その悩みは必然で、仕方がないことだろう。
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