78.最後に
私達は、再びシャザームの研究室に来ていた。
ここには、アルフィアの魂がある。その魂を修復して、この体へと戻すのだ。
「準備はいいか?」
「はい……」
ディゾール様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
心の準備は、既にできている。アルフィアの魂がこの体に戻った時、私はここから出て行く。
私は、この場所に留まっておくつもりはない。天に旅立つつもりだ。それが、自然の摂理だからである。
「アルフィア様……」
「アルフィアさん……」
私の周りには、皆がいた。私のことを心配して、来てくれたのだ。
結局、私の決断に対して、皆は納得していない。今見える表情からも、それは伝わってくる。
ただ、私の意思を汲んでくれているのか、はたまたディゾール様の論に反論できないからなのか、私達と止めようとする人はいなかった。
本当に、これが最後の別れなのだ。改めてそれを感じ取って、少し悲しくなってきた。
だが、それでも私は折れない。折れてはいけないのだ。この世界のために、アルフィアのために。
「……皆、今までありがとう。皆と出会えたことは、私にとってとても幸福なことだった。アルフィアとして過ごせたこの時間は、私の中でかけがえのない時間だった。ありがとう、本当にありがとう……」
「アルフィア様……そんなことを言わないでください」
「そうだよ……お礼を言うのは、こっちの方だ」
私の言葉に、メルティナとキャロムは涙を流していた。
それを見ていると、こちらも心に来るものがあった。自然と涙が、零れ落ちてきたのだ。
「アルフィア嬢、本当にこれでいいのか?」
「そうですよ……こんな結末で……」
「いいのよ、これで……」
ドルキンスとファルーシャは、私をもう一度止めようとしてくれた。
何度も思ってきたが、それはありたがいことである。だが、答えも同じだ。私は、これでいいと思っている。
「……俺はあんたを犠牲にすると言った。だが、他に方法はないのか? あんたがこの世界で生きていてはいけないなんて、本当にそうなのか?」
「そうです……あなたは、こちらの世界で生きていたではありませんか。それがどうしていけないことになるというのですか?」
「私がこの世界に来て、この体に入ったのは運命の悪戯……本来なら、あってはならないことなのです。それは元に戻さなければ、ならないこと……」
リオーブもバルクド様も、その感情を抑えられなくなっていた。
私は、こんなにも大切に思われているのか。私は、改めてそれを実感して、とても温かい気持ちになっていた。
思えば、ゲームと同じような世界に迷い込んできて、色々なことを思ってきた。破滅の運命を回避したい。憧れの人達と一緒にいたい。そんな思い出が、どんどんと蘇ってくる。
「色々とありましたが……私から言えることは、ただ一つです」
いつしか、私はこの世界に対する認識が改まった。ゲームの世界やゲームの登場人物ではなく、ただ自分が生きる世界として、ただ自分の友人として、認識するようになっていたのだ。
それは、思えば不思議なことである。
「楽しかった。ただ、それだけです」
私は、最後は笑っていようと思った。それが、この世界で出会った素晴らしき人々に私が最後に見せる表情として、一番相応しいものだと思ったからだ。
「……さらばだ。誇り高き者よ。俺……いや、我々はお前のことを決して忘れはしないだろう」
ディゾール様の魔法で、アルフィアの魂は一つに戻った。彼は、その魂をそのまま私の中に入れてくる。
これで、全てが終わりのだ。そう思いながら、私はゆっくりと目を瞑るのだった。
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