73.空気を変えるもの
「えっと……」
「あの……」
私とほぼ同時に、メルティナが声を出してきた。二人の声が重なり、お互いに黙ってしまう。
今の彼女達に対して、私は何を言えばいいのだろうか。それを少し考える。
私は大丈夫だと言えばいいのだろうか。だが、それを言った所で、彼女達の心が晴れるとは思えない。
「キャロム君! メルティナさん! 邪魔するぞ!」
「え?」
「あっ……」
「なっ……」
私が悩んでいると、空き教室の戸が勢いよく開かれた。それと同時に響いてきたのは、ドルキンスの声だ。
「む? なんだ? 皆、少し暗いぞ? 具合でも悪いのか?」
「い、いえ、そういう訳ではないわ」
「そうか? それなら、いいのだが……」
ドルキンスは、とても元気だった。その元気さに、私は思わず笑顔になる。
メルティナもキャロムも同じだった。彼のおかげで、暗かった空き教室の雰囲気が少し明るくなったのだ。
こういう時にドルキンスの存在は助かる。キャロムの時といい、彼の明るさは負の感情を断ち切ってくれるものだ。
「まあ、皆色々と思う所はあるか……しかしだな、思い悩んでも仕方ないこともあると俺は思うのだがな……悩みなんてものは、あまり考えない方が精神衛生的にいいというか……まあ、能天気に生きた方が、人生は楽しいということだ」
「え、ええ、そうね……」
ドルキンスにも、悩みがないという訳ではないのだろう。
だが、それでも彼は明るく振る舞っている。それは、すごいことだ。
そういう所は、見習わなければならないだろう。私も、もっと明るく振る舞うことを心掛けるべきだ。
「おっと、話がそれてはいけないな……俺は、皆に伝言を言付かっていたのだ」
「え? 伝言?」
「兄上が、皆を呼んでいるのだ。なんでも、話したいことがあるらしい」
「ディゾール様が?」
ドルキンスの言葉に、私達は顔を見合わせる。ディゾール様が私達を呼んでいる意味を考えたからだ。
ディゾール様は、二人の他に魂結合魔法を修得しようとしている人だ。そんな人から呼び出される。それは、もしかしたらそういうことなのではないだろうか。
そんな考えが、私の中に浮かんできた。恐らく、二人も同じようなことを考えているだろう。
「……わかったわ。他にも人は呼ぶのかしら?」
「呼んで欲しいと言われた人達には、既に声をかけてある。三人が最後だ。そういう意味では、ここにアルフィア嬢がいたことは幸いだったな」
「そうね……」
ディゾール様が魔法を修得したかどうかはわからない。だが、その可能性は高いはずだ。
そのため、私も改めて覚悟を決めなければならない。在るべき場所へと帰る覚悟を。
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