96.寂しいのなら
「おっ……終わったか?」
「うん、そうみたいだね」
私とドルキンスが会話している内に、キャロムの修行が終わったようだ。彼の周りにもう魔力は見えないため、恐らくそうだろう。
そんなことを考えていると、キャロムがこちらにゆっくりと歩いてきた。その顔は、笑顔である。
「二人とも、休憩中かい?」
「え? ええ、そうよ」
「キャロム君の方も、休憩か?」
「ああ、そういうことになるね」
キャロムは、いつも通りの態度だった。ただ、先程までの態度を見ていたためか、その態度には少しだけ思う所がある。
恐らく、キャロムは寂しがっていたのだろう。それで、修行が終わってすぐにこちらに駆け寄ってきたのだ。
それは、なんだか可愛らしいように思えた。こういう所を見ていると、彼もまだまだ子供なのだなあと、改めて感じる。
「シズカさん? なんで笑っているの?」
「え? いや、なんでもないよ」
「キャロム君、もしかして寂しかったのか? なんというか、そういう目でこちらを見ていたぞ?」
「え?」
「あっ……」
思わず笑ってしまった私は、それを誤魔化そうとした。しかし、それをドルキンスが許してくれない。キャロムの態度を指摘してしまったからだ。
それは、キャロムにとって嫌なことなのではないだろうか。そう思って、私はそっと彼の方を見る。
「べ、別にそんなことはないさ」
キャロムは、顔を赤くしていた。それも、なんだか可愛らしい態度である。
ただ、別にそこまで嫌がってはないようだ。
考えてみれば、この程度で嫌ならドルキンスとは付き合っていけないだろう。なぜなら、彼はとても素直な人だからだ。
「キャロム君、寂しいならそう言ってくれればいいんだぞ。俺もシズカ嬢も、しっかりと受け止めてやるからな」
「いや、だから別にそんなことはないと言っているだろう?」
ドルキンスの言葉に、キャロムは照れながらも反論した。頑なに、寂しがっていたとは認めないつもりのようだ。
「さあ、キャロム君、俺の胸に飛び込んでくるがいい!」
「いや、飛び込まないよ?」
「なんだ? シズカ嬢の方に飛び込みたいということか? まあ、気持ちはわからない訳ではないが、そういうことを女性に求めるものではないぞ?」
「違う! 僕はそんなこと言っていない!」
キャロムは、顔を真っ赤にして反論していた。こんなに興奮しているキャロムを見るのは、久し振りである。
いつ見たのか思い出してみると、それはメルティナと体育館で戦った時のことだった。あの時の動揺に比べて、今回はなんとも可愛いものである。
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