59.不可解な存在

「結果的に、アルフィア様は裁かれることになりました。巧妙だったシャザームは、自分の関与はばれないように仕掛けを施していました。しかし、彼女はそれでも心配だったのです。何かのきっかけで、自分の関与がばれるのではないかと……」

「まあ、事実としてメルティナは疑っていた訳だものね……」

「ええ……だから、彼女はアルフィア様の魂を奪うと決めたのです。彼女を亡き者にして、事件を終わらせようとそう思ったのです」

「なるほど……」


 シャザームの考えは、なんとなく理解できる。あの暗黒の魔女は、なんというかやけに慎重だった。アルファアからばれると思って、魂を奪っても不思議ではない。


「シャザームは、アルフィア様の魂を奪い取ることに成功しました。しかし、その時不思議なことが起こったのです。時が……巻き戻ったのです」

「丁度その時、時が巻き戻ったのね……」

「ええ、ですが、不思議なことに魂はその手に残っていました。そこから……彼女は、恐ろしいことを始めたのです」

「恐ろしいこと……?」


 そこで、ファルーシャの表情が変わった。先程までも明るくはなかったが、とても暗い表情になっていたのだ。

 その顔を見ていると、とても嫌な予感がしてくる。アルフィアに、一体何があったというのだろうか。


「シャザームは、アルフィア様の魂で実験を始めました。彼女の魂を傷つけたり、分割したり……恐ろしい実験でした」

「そ、そんなことを……」


 ファルーシャは、声を震わせていた。聞くだけでも恐ろしい話だが、実際に見たことがある彼女は、もっと恐ろしいのだろう。

 魂を傷つけたり分割したりする。それによって、どんな影響があるのかはわからない。

 ただ、確実にいいことでないことはわかる。シャザームは、残酷な人間だ。私は、改めてそれを実感する。


「ただ、彼女にとって予想外だったのは、アルフィア様が健在だったことです。まさか別の世界から魂が入っていたとは、彼女も思っていなかったようです」

「まあ、それはそうよね……私自身だって、わかっていなかったんだもの」


 流石の暗黒の魔女も、私の存在までは理解できていなかったようだ。

 それは、そうだろう。私の存在は、例外中の例外だ。恐らく、予想できた人なんて、誰一人いないはずである。


「あなたの存在には、焦っていましたが、暗黒の魔女は特に何もしようとはしませんでした。魂を奪っても戻ったあなたの魂を奪っても、無駄だと思っていたようです。別に自分の邪魔をしようとしている訳でもないので、放っておいてもいい。彼女はそう判断したのです」

「なるほど……」


 シャザームにとって、私の存在は理解できないものだった。慎重な彼女は、そんな私に触れるのは得策ではないと思ったようだ。

 そのおかげで、私は助かった。そう思うと、結構危なかったのだと実感する。一歩間違えていれば、私も魂を抜かれていたかもしれないのだ。

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