75.揺るがぬ決意

「……何か、方法はないのでしょうか?」

「む?」

「今のアルフィア様の魂を別のものに移すとか、そういう可能性があるのではないですか?」


 そこで、メルティナが声をあげた。彼女の声は、震えている。今までの彼女に比べると、それはなんだか珍しいことに思えた。

 時が巻き戻る前の記憶がある彼女は、いつも堂々としていた。それが、ここまで弱々しくなるのは、その主張が間違っていると自分でもわかっているからなのだろう。


「はっきりと言っておこう。今のアルフィアがこの世界に留まることは、自然の摂理に反することだと」

「それは……」

「肉体を失った魂をいつまでもこの世界に留めておくべきではない。悪事を働くかどうかは関係なく、シャザームのような存在は許されないのだ」


 ディゾール様の言葉に、メルティナは何も言い返せなかった。それは、彼の主張を彼女も理解しているからだろう。

 当たり前のことだ。私は、この世界に留まっていてはいけない。あの時終わった私の生は、こちらの世界で他人の体を借りて続けていいことではないのだ。


「アルフィアさん、あなたはどう考えているのですか?」

「え?」

「僕達は、まだあなた自身の気持ちを聞いていません。それを聞きたいのです。お願いできますか?」


 そこで、バルクド様が私にそんな質問をしてきた。

 確かに、まだ私の気持ちは話していない。この場で知っているのは、メルティナだけである。

 その気持ちは、話しておくべきだろう。それによって、皆の気持ちも少しは落ち着いてくれるかもしれないのだから。


「……私は、自分がこの世界から消えることに納得しています。怖くない訳ではありません。でも、私もディゾール様と同じように考えています」

「……そうですか」


 私は、真っ直ぐに自分の思いを打ち明けた。すると、バルクド様は悲しそうな顔をしてくれる。

 彼だけではない。他の皆もそうだ。

 それが嬉しかった。そして、悲しかった。こんなにも素晴らしい人達と別れなければならないということに、私は痛みを覚えていたのだ。

 だが、それでも考えは変わらない。それだけは、変えてはならないことだと思っているからだ。


「アルフィアさん……そんなの間違っているよ。どうして……どうして、あなたはそんなことを言うんだ」

「キャロム……」


 そんな私に、最初に話しかけてきたのはキャロムだった。

 彼は、その目に涙を滲ませている。初めて会った時に比べると、彼も随分と変わったものだ。それだけ、私に心を開いてくれたということだろうか。


「キャロム君、落ち着くんだ。アルフィア嬢だって……」

「わかっている。わかっているさ……」


 涙ぐむキャロムの肩に、ドルキンスが手を置いた。

 それに対して、キャロムは顔を歪める。ドルキンスが何を言いたいのか、彼もわかっているのだろう。

 二人なら、きっとこれからも上手くやっていけるはずだ。私は、ふとそんなことを思っていた。

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