76.優しき人達
「アルフィアさん、正直に言わせてください。僕も、あなたに消えて欲しくないと思っています」
「バルクド様……」
キャロムが黙ってから、バルクド様がゆっくりと口を開いた。彼は、深刻な顔をしている。私が消えることを悲しいと思ってくれているのだろう。
「あなたから話は聞いています。でも、僕にとってアルフィアはあなただ。大切な婚約者は、あなたに違いありません」
「……でも、本物のアルフィアを見捨てていいということにはならないでしょう?」
「それは、そうですが……」
バルクド様は、時が巻き戻る前の記憶がない。彼女にとって、私がアルフィアでしかないのだ。
本物といわれてもよくわからない。それが、彼の感想なのだろう。
だが、それでもその人を見捨ててはならないと思えるのがバルクド様だ。そういう彼の優しさを私は尊敬している。
「アルフィア……俺もバルクドと同じよう気持ちは抱いている。正直言って、本物とか偽物とか、そういうことはわからない……だが、俺はあんたに消えてくれというしかない」
次に言葉を発したのは、リオーブだった。
彼は悲しそうな顔をしている。だが、それでも私に消えてくれというつもりであるらしい。
「もしもファルーシャが姉貴の魂を隠していなければ、姉貴はアルフィアと同じようになっていたかもしれない。そう考えると……俺は、アルフィアに助かって欲しいと強くそう願わずにはいられないんだ」
「リオーブ様……」
リオーブ様の気持ちは、よくわかった。姉の魂をシャザームに奪われた彼からすれば、アルフィアはどうしても助かって欲しい存在なのだろう。
そのために、私に消えて欲しいというしかない。苦しみながらも、その結論を導き出したのだろう。彼の表情からはそれが読み取れる。
「アルフィア様……私は、罪を犯しました。もしも、あなたが望むのなら……」
「ファルーシャ、やめてちょうだい。私は、そんなことを望んでいないわ」
「でも……」
「あなたは被害者よ。罪の意識なんて持つ必要はないの。それを忘れないで……」
ファルーシャは、私にその体を差し出そうとしていた。その罪の意識から、そんなことを言い出してしまったのだろう。
だが、彼女に罪なんてない。それどころか、一番の被害者だ。彼女のそんな要求を私は受け入れるつもりはない。
「アルフィア様……」
「……メルティナ」
「考えは、変わらないのですか?」
「ええ、変わらないわ」
「……それが、あなたの決意なのですね」
「ええ、そうよ」
私の目を、メルティナは縋るような目で見てきた。彼女がこんな風な目で見てくるなんて、珍しいことだ。
だが、彼女が優しいということは知っている。だからこそ、彼女がどんな気持ちなのかも理解できる。
そして、きっと彼女も私のことは理解してくれているだろう。私の決意はもう揺るがないとわかってくれているはずだ。
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