56.取り憑かれた少女

 私達は、保健室に来ていた。一段落ついた後、

 私とメルティナは、皆に自分の事情を話した。この世界が一度巻き戻っていること、私が別の世界からアルフィアの体に入った魂であること、包み隠さずに全部を。


「ということは、アルフィアさんはアルフィアさんじゃないということなの?」

「ええ、そういうことになるわ」


 当然のことながら、皆驚いていた。あのディゾール様でさえ、目を丸くしているくらいだ。


「まあ、でも、俺達が知っているアルフィア嬢はアルフィア嬢なんだろう? 別の世界から来たからと言って、それが変わる訳ではないはずだ」

「ドルキンス……確かに、それはそうなんだけど……でも、それは……」


 キャロムは、私が別の世界から来たということに対してかなり動揺していた。確かに驚くべきことではあると思うが、どうしてここまで動揺しているのだろうか。それは、よくわからない。

 いや、もしかしたら、これが普通の反応なのだろうか。メルティナやリオーブ、ドルキンスなどが動じなさ過ぎるのかもしれない。


「キャロムさん、お気持ちはお察しします。ですが、今はファルーシャ様の話を聞く方が先です」

「あ、ああ、そうだね……」


 そんなキャロムを宥めて、メルティナはファルーシャの方に目を向ける。

 今の私達に重要なのは、彼女の話を聞くことだ。シャザームに取り憑かれていた彼女の話は、色々な疑問を解決する手がかりになるかもしれない。


「ファルーシャ様、よろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。私が知っている全てをお話ししましょう」


 メルティナの言葉に、ファルーシャはゆっくりと頷いた。

 ちなみに、彼女の容体はそれ程問題がある訳ではないようだ。取り憑かれていたため精神的な疲労はあるが、肉体的には問題ないらしい。

 もっとも、彼女は一度病院で診てもらうべきだろう。何が起こっているか、完全にわかっている訳ではないのだから。


「私が暗黒の魔女に取り憑かれたのは、時が巻き戻る前の八歳の頃です」

「八歳……そんな時に、取り憑かれたのか……」


 ファルーシャの言葉に、リオーブは悲しそうに呟いた。その気持ちはよくわかる。八歳の頃に、あんなのに取り憑かれるなんて、とても悲惨なことだ。聞いているだけで、辛くなってくる。


「……彼女は、私の精神に干渉してきました。時には私を操り、時には自分の存在を記憶から消し、自らの計画を進めようとしていたのです」

「計画?」

「申し訳ないのですが、私も彼女の計画を全て知っている訳ではありません。記憶に干渉されていて、何もかも覚えているという訳ではないのです。ただ、彼女が魂に関する魔法の研究をしていたことは確かなことです。恐らく、何かの魔法を作り出そうとしていたのではないでしょうか?」

「なるほど、確かにそれはあり得そうな話ね」


 ファルーシャの予測は、納得できるものだった。

 彼女は、魂奪取魔法などといった魔法を開発した。その研究を続けるために、魂となって生き続けている。研究者としては、あり得そうな話だ。

 もっとも、彼女が何をしようとしていたかは、最早重要なことではないかもしれない。なぜなら、彼女は既にこの世にいないのだから。

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