55.全てを話す前に

「……わかりました。ここにいる皆さんに、話があります。それは、この世界の成り立ち……それに、私達に関することです」

「ほう?」

「……なんとなく、今までの話から、何かあるとは思っていたよ」


 メルティナは、キャロムとディゾール様に話しかけた。恐らく、二人にも私達やこの世界の事情を話そうというのだろう。

 確かに、その方がいい気がする。ここまで来て、隠しておくのも変な話だ。きっと信じてもらえるだろうし、話してもいいだろう。

 そこで、私はディゾール様がレフェイラを支えていることに気づいた。どうやら、彼女の魂は未だ戻って来ていなかったようである。


「何か重要な話があるのだな?」

「はい……」

「ならば、もう一人呼んでおく必要があるな……ドルキンス!」


 ディゾール様の言葉で、物陰からドルキンスが現れた。まさか、彼までいるとは驚きである。ディゾール様について来たということなのだろうか。


「ドルキンスには、この場の様子を記録魔法で記録させておいた。これで、全ての元凶があの暗黒の魔女であるということは、周知の事実となるだろう」

「兄上に急に言われた時は驚いたが、今はもっと驚きだ。まさか、この事件がこんなにも重大なことだったとは……」

「そうだったのですね……それなら、ドルキンス様も、話を聞いてください」


 ドルキンスは、この場で起こったことを記録させるために呼び出されていたようである。

 それは、少し意外なことであった。この二人の兄弟の間には、てっきり確執があるものだと思っていたのだが、そうではなかったのだろうか。

 いや、ドルキンス側からは壁があるが、逆はそうでもない。そういう可能性も考えられるだろうか。もしかしたら、私が思っているよりも、この二人の兄弟の関係性は複雑なものなのかもしれない。


「おいおい、確かに話は必要かもしれないが、その前にまずは保健室だろう。ファルーシャも、それにレフェイラも診てもらった方がいい」

「リオーブ様、私は別に……」

「……そうですね。私としたことが、少し焦っていました。確かに、お二人を保健室に連れて行くべきですね」


 話が始まる前に、リオーブは保健室に行くことを提案してきた。

 確かに、二人を保健室に連れて行った方がいい。いや、二人だけではないだろう。メルティナもキャロムもディゾール様も戦ったのだから、皆保健室に行った方がいいはずである。

 なんというか、色々あり過ぎて、私達は少し焦っていたようだ。一度、心を落ち着かせて冷静になるべきだろう。

 そう考えると、リオーブがとても冷静であることがわかる。怨敵が消滅した後に、ここまで他者を思いやれる彼は、とても素晴らしい人だといえるだろう。


「それでは、保健室へ行きましょう。話は、そこでもできますから……」

「え? ええ……」

 大きな事件があった後で、皆気が立っている。今のやり取りは、そういう風に受け取ることができる。

 ただ、私は少しだけ違和感を覚えていた。なんというか、メルティナの顔に不安というか、焦りというか、そういう感情が読み取れたのだ。

 それが何を意味するのか考えながら、私は皆とともに保健室に向かうのだった。

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