89.強くなるためには

 私は、生徒会室を訪れていた。とある人物に、相談したいことがあったからだ。


「それで、俺に話とはなんだ?」


 当然のことながら、その人物とはディゾール様である。私は、彼に今自分が抱いているとある思いを打ち明けることにしたのだ。


「ディゾール様、私、強くなりたいんです」

「ほう……」


 私が真っ直ぐに思いを伝えると、ディゾール様は小さく返事をした。

 それから、彼は何か考えるような仕草をする。もしかして、伝わっていないのだろうか。

 確かに、これだけ言ってもなんのことかわからないかもしれない。もっと順序立てて説明する必要があるだろう。


「えっと……シャザームとの戦いにおいて、私は何の役にも立てませんでした。私がもっと強ければ、メルティナももっと楽だったはずです。だから、強くなりたいんです。でも、どうすればいいかわからなくて……」

「問題ない。お前が何を考えているかは、大方わかっているつもりだ」

「え? そうなのですか?」


 どうやら、先程の一言だけで、ディゾール様は全てを察していたようだ。流石は、天下の生徒会長。とても聡明である。


「ふむ……その志はいいことだ。俺は努力しようとする者は尊敬に値すると思っている。結果がどうあれ、何かを成し遂げようとした者に対しては一定の敬意を払うのが俺の信念だ。故に、お前への支援も惜しむつもりはない」

「そ、そうですか? それは、ありがとうございます」

「ただし、俺に甘えるようであれば、俺はお前を容赦なく切り離すだろう。それは、肝に銘じておけ」

「え? あ、はい……」


 そこで、ディゾール様はゆっくりと立ち上がった。その手には、私と話しながら何かを書いた紙を持っている。


「これは、俺が優れていると思っている書籍の一覧だ。とりあえず、その三冊を読め」

「は、はい……」

「だが、当然、魔法は使わなければ上達しない。魔力も同じだ。故に、実践する必要があるだろう。それについては、俺が手配しておう」

「ありがとうございます」


 ディゾール様は、生徒会室の棚から一枚の紙を取り出した。今度は、それに何かを書いている。恐らく、魔法を練習するための手配に必要な書類を書いているのだろう。

 なんというか、ディゾール様はとてもノリノリである。思っていた以上に、私を手伝ってくれるつもりのようだ。

 彼が、志を持つ者が好きであることは、入学式のおかげでよくわかっている。しかし、まさかこれ程とは思っていなかった。

 だが、助力してくれるというなら、こちらとしてはありがたい限りだ。ここは、遠慮くなく協力してもらうことにしよう。

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