114.悪い知らせ

 私は、今日もいつも通りの一日を過ごしていた。

 こちらの世界に戻って来てから、授業を受けて、ディゾール様の指導を受けるという毎日が続いている。

 その日常に、私は慣れてきていた。だが、それはいつまで続くのだろうか。

 この日常に、終わりは必ずやってくる。シャザームが討たれたなら、私は元の世界に帰らなければならないのだ。


「……シズカさん、少しいいですか?」


 そして、そんな終わりは突然やって来た。

 メルティナが、私の部屋を訪ねて来たのだ。その手に、一通の手紙を持って。

 それは恐らく、この国の騎士団からの手紙だろう。騎士団が、シャザームを討った。そういう連絡が、メルティナの元に来たのではないだろうか。


「メルティナ、どうしたの?」

「……これを見てください」


 私は、メルティナから手紙を渡された。

 そこで、私はあることに気づく。メルティナの顔が、明るくないのだ。

 それは、私との別れが迫っているからという風ではない。少し焦っているようなそんな印象を受けるのだ。

 そう思った私は、手紙に素早く目を通す。すると、そこには私が予想していたようなことが記されている。


「騎士団が……シャザームの討伐に失敗した?」

「ええ、そのようです」

「そんな……まさか、シャザームはあれ程の力を分割して尚、強力な力を持っているというの?」

「わかりません……」


 騎士団は、シャザームの討伐に失敗したようだ。

 この国でも、屈指の実力を持つはずの騎士団が負ける。それは、とても恐ろしい知らせだ。

 シャザームは、確かに強力な魔力を持っていた。だが、その力を持つ暗黒の魔女は、消滅したはずである。

 しかし、それでも彼女が勝った。それは、シャザームがまだ力を隠し持っていたということなのだろうか。


「ただ、手紙の記述から、彼女は何かしらの兵を持っているようです」

「兵……確かに、そうみたいだね」


 メルティナの言葉に、私はゆっくりと頷く。確かに、その旨が手紙に記されているからだ。

 騎士団は、岩の巨人と交戦したらしい。それが、シャザームの兵力のようだ。

 それは、一体何なのだろうか。文字だけ見れば、まるでゴーレムか何かのように思えるのだが。


「恐らく、それは魔力を込めた兵だと思います。彼女のことですから、多分特別製でしょう」

「えっと……それは、どういうものなの?」

「魔力を込めることによって、物体を操ることができます。それを応用して、簡単な命令を実行する人形のようなものを作れるのです。それは、作り置きしておくこともできるはずです。つまり、その魔力を込めた人形は、彼女の現在の力に関係なく、力を行使できるということです」


 メルティナの説明に、私は驚いた。

 だが、それならシャザームが騎士団に勝利できたことの説明がつく。彼女は、かつて作った人形で、騎士団に対抗したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る