110.揺れる思い

「それで、まあ、私の方はそんな所かしら。後は、メルティナのことね」

「メルティナのこと?」


 アルフィアの言葉に、私はメルティナの方を見てみた。すると、彼女は少し気まずそうな顔をしている。


「えっと……時が巻き戻る前、メルティナはバルクド様と結ばれたんだよね?」

「……ええ、そうです」


 私の指摘に、メルティナは少し照れていた。

 彼女の事情は、少し複雑である。時が巻き戻る前にバルクド様と結ばれた。だが、今回は特にそういうことにはなっていない。

 メルティナだけが覚えている状態。それが今なのだ。彼女にとって、それはかなり苦しいことだろう。


「その、今でも、バルクド様のことは……」

「そうですね……それは少し、難しい問題なんです」

「難しい問題?」

「ええ……」


 私が恐る恐る聞いてみると、メルティナはまた複雑な表情をした。

 彼女にとってこのことは、かなり悩ましいことのようだ。その表情だけで、それが伺える。


「私は、確かにバルクド様とそういう関係になりました。でも、それを彼は覚えていない。私達がどんな風に出会って、どんな風に結ばれたか、それを彼は何も覚えていないのです」

「……そうなんだよね」

「それどころか、彼は違う時間を歩んでいます。違う人生を歩んでいます。そんな彼に対して、私はどうすればいいのかわからないのです。紛れもなく彼であるというのに、私は中々そう思うことができないのです」


 メルティナは、バルクド様を時が巻き戻る前と同一人物であるとは認識しつつも、それに納得することができていないようだ。

 確かに、それは難しい所だろう。バルクド様は今、記憶喪失のような状態だ。

 いや、それよりももっと複雑かもしれない。彼は記憶をなくして、その記憶を上書きするように人生を歩んでいる。それが、メルティナの彼に対する思いを疑う要因となっているのだろう。


「という訳で、私も今はそういうことにはあまり向き合えていないというのが現状です」

「そっか……」

「あり得るかはわかりませんが、バルクド様が何かを思い出してくれれば、私の考えも変わるのかもしれません。でも、それまでは……」

「うん、それは仕方ないことだよ」


 私は、メルティナの言葉に頷いた。

 時が巻き戻ったことによって、色々なことが変わってしまった。その影響で、彼女の思いが変わることも仕方ないことだろう。

 結局の所、この三人の関係は、分解されたような状態といった所だろうか。変にこじれていないのは良かったことだが、素直に喜べる状態ではないので、私も結構複雑である。

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