62.婚約者との対話
私は、学園の屋上に来ていた。ここに来たのは、リオーブと話し合って以来だ。
ここは、あまり人が寄り付かない場所だ。品行方正な者達が多いこの学園の生徒達は、危険だからあまり近寄らないように言われているこの場所をほとんど利用しないのである。
そこで、私はとある人物と話していた。その人物には、私のことを話しておかなければならないと思ったからだ。
「そんなことに……なっていたのですね」
「ええ……」
私の説明に、バルクド様は複雑な顔をしていた。私がアルフィアではないこと、時が巻き戻っていること、この学園で起きていた事件のこと。色々と伝えたので、今は彼も色々と混乱しているのだろう。
「そうですね……まずは、あなたのことから触れましょうか。ただ、それは難しいことですね……僕にとって、アルフィアさんはアルフィアさんです。今のあなたしか知りませんから、それについてどうこういうことはできません」
「……そうですか」
まず彼が触れてきたのは、私が異世界から来たアルフィアではない人物であるということだった。
ただ、これに関しては反応し辛いようだ。それはわかっている。他の皆も、大抵そんな反応だったからである。
結局の所、皆時が巻き戻る前のアルフィアを知らない。別人といわれても、それが実感できる要素がないのだ。
だから、なんともいえない反応になる。そういうことなのだろう。
「時が巻き戻っているということに関しても、同じですね……僕には、その時の記憶がありませんから、よくわかりません……事件にも、関わっていない訳ですし」
「そうですよね……」
時が巻き戻った事実に関しても、私のことと同じような感想しか抱いていないようだ。
やはり、自分が覚えていないというのが、重要なのだろう。それに対して、何かを考えるのは、難しいことなのだ。
「……ただ、この学園で事件が起きていて、それにあなた達が巻き込まれていたという事実には、はっきりとしたことがいえます。あなた達を助けたかったと……」
「バルクド様……」
「あなたを守りたかった。リオーブを助けたかった。婚約者や親友やクラスメイトが苦しんでいるというのに、それに気づかずにのうのうと暮らしていた自分が、嫌になります」
バルクド様は、事件に対してだけははっきりとした意見を述べてくれた。
彼は、優しい人である。だから、こんな風に私達を助けられなかったことを後悔しているのだ。
だが、それは必要がないことである。何も知らせなかったのは、私達なのだから。
「バルクド様が責任を感じることではありません。私達は、何も言いませんでした。あなたがそれを知ることなんて、できなかったのですから……」
「……わかっています。でも、もし気づけていたなら……いえ、僕なんて役に立たなかったのかもしれませんが、それでも何かできたのではないかと、そう思ってしまうのです」
「……その気持ちだけで、充分です。ありがとうございます、バルクド様。それに、ごめんなさい。何も言えなくて……」
「……いえ」
私は、ゆっくりと後ろを向いた。言うべきことは言った。だから、もうこの場から立ち去ることにしたのだ。
恐らく、彼も一人になりたいだろう。私は、明日のこともあるし、早く休まなければならない。そのため、すぐに立ち去るべきだと思ったのである。
「……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんですか?」
「どうして、僕に全てを話してくれたのですか?」
「……それは」
バルクド様の言葉に、私は少し驚いた。
何故、この話をバルクド様にしたのか。その理由ははっきりとわかっている。
だけど、それを口に出すことは憚られた。それは、私がこの現実を恐れているからなのかもしれない。
「あなたには、真実を知る権利がありました。私は、アルフィアではありません。だから、それを伝えたかったのです」
「……そうですか」
私は、彼に理由を伝えた。ただ、これは全てではない。理由の一部でしかないのである。
それが、私が口にできる精一杯だったのだ。それ以上は、今の私に踏む込むことはできない。
こうして、私はバルクド様との話を終えるのだった。
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