32.犯人らしき人物

「……」

「……」

「……」


 視界が戻って私達の目に入ってきたのは、たくさんの人々だった。教師や生徒といった面々が、私達を見て驚いているのだ。

 そこは、先程と同じ廊下である。だが、これ程人がいるのだから、これは本当の世界なのだろう。


「……どうやら、空間を操作するような魔法が行使されていたようだな」

「あ、兄上……」


 そんな私達に、話しかけてくる人物がいた。それは、生徒会長のディゾール様だ。

 彼は、私達に何が起こったかを即座に理解したようである。この場で誰よりも早く私達に話しかけているのも、それが理由だろう。


「あ、兄上、俺達は……」

「閉じ込められていたということか」

「ああ、そうなんだ。校舎に入った瞬間、別の空間に囚われたそうなんだ」

「それが、そいつの見解という訳か」

「ああ、そうだ。なあ、キャロム君……うん?」


 ドルキンスが声をかけた瞬間、キャロムの体がゆっくりと倒れていく。反射的に動いたドルキンスがそれをなんとか受け止めたことで、彼の体は地面にぶつかることはなかった。


「キャロム君、どうしたんだ?」

「どうやら……魔力を使い過ぎたみたいだ」

「なっ……そんなに膨大な魔力を消費したのか?」

「ああ……僕が全力でやって、やっと開けるくらいの迷宮だったんだ……おかげで、この有様さ」


 どうやら、キャロムは魔力を大きく消耗したらしい。その反動で、立っていられなくなったようだ。

 私にもわかる程に、彼は魔力を使っていた。やはり、あの迷宮はかなり厄介なものだったようだ。


「アルフィアさん……迷宮を作り出した人間は、それがどうなっているかが気になっているはずだ。恐らく、近くで僕達を見張っていただろう。でも、空間が破壊された今、その人物はここから立ち去ろうとしているはずだ。多分、近くにはいたくないだろうからね」

「……まさか」


 キャロムの言葉に、私は野次馬らしき人達の方を見た。すると、その集団から一人の女性が抜け出しているのが見える。


「見つかったみたいだね……恐らく、その人が犯人だ。違うかもしれないけど……一応、話は聞いてみていいんじゃないかな」

「ドルキンス、キャロムのことを頼めるかしら?」

「そ、それは構わないが……」

「それなら、お願い!」

「何!? 待て!」


 ディゾール様の制止も振り切り、私は駆け出した。野次馬達をかき分けて、逃げる女性を追う。

 近づいてみて、私はその女性が誰なのかを理解した。彼女は、レフェイラ・マグリネッサ伯爵令嬢。メルティナを虐めていた令嬢達のまとめ役である。


「くっ……」

「あ、待ちなさい!」


 私が追いかけていることに気づいたのか、レフェイラは駆け出した。その反応は、彼女があの迷宮に関わっていることを表している。

 これは、いよいよ逃がす訳にはいかなくなった。なんとしても、彼女から話を聞かなければならない。


「わっ!」

「きゃあ!」

「ア、アルフィア様……!」

「え? メ、メルティナ?」


 レフェイラを追いかけている最中、私は階段から下りてくるメルティナとぶつかりそうになった。まさか、こんな時に彼女と再会するとは思っておらず、私はとても驚いてしまう。


「ぶ、無事だったのね。良かったわ。でも、今はあなたとの再会を喜んでいる場合ではないの。レフェイラを追わないと……」

「レフェイラ様を? そうですか、それなら丁度良かった。私も、彼女を探していた所ですから」

「そうだったの? 一体何が……いえ、今はそれよりも彼女を追いかけましょうか」

「ええ、そうしましょう。彼女は、確か、こっちに行ったわ」

「はい、行きましょう」


 事情はよくわからないが、メルティナもレフェイラのことを探していたようだ。

 それなら、とりあえず彼女を追うべきだろう。そう意見が一致した私達は、レフェイラが行った方向に向かった。

 しかし、角を曲がった先にレフェイラはいない。どうやら、私達が話している間に、どこかに行ってしまったらしい。


「あら? お二人とも、どうかされたのですか?」

「あ、ファルーシャ様……」


 代わりにそこには、ファルーシャがいた。何やら、彼女はプリントらしきものを持っている。

 確か、彼女はクラスの学級委員長になったはずだ。大方、教師から何かを頼まれたのだろう。


「ファルーシャ様、こちらにレフェイラ・マグリネッサ伯爵令嬢が来ませんでしたか?」

「私達、彼女を探しているのです」


 彼女がここにいたことは、私達にとって都合がいいことだった。レフェイラの行き先を見ている可能性があったからだ。

 同じ考えをしていたのか、私の言葉にメルティナがすぐに続いてくれた。それに対して、ファルーシャは少し困惑しながら口を開く。


「レフェイラさんですか? 彼女なら、あの角を曲がりましたけど」

「そうですか、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「あ、いえ……」


 困惑する彼女に特に事情を説明することもなく、私達は駆け出した。彼女には悪いが、今はとても急いでいる。このことは、後日謝って事情を説明するとしよう。

 私達は、ファルーシャが言った角を曲がった。この先に、レフェイラがいるだろうか。それとも、既に別の場所まで逃げているのだろうか。

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