104.それぞれの口調
「お二人とも、ひどいです。人の視線を怖いだなんて……そもそも、注意して欲しいと頼んできたのは、アルフィア様ではありませんか」
「それはそうなんだけど……」
「シズカさんも、納得しないでくださいよ」
「で、でも、メルティナの気迫は知っているし……」
メルティナは、私とアルフィアに対して怒っていた。
それで、私は理解する。メルティナとアルフィアの間には、それ程確執がある訳ではないのだと。
「……」
そこで、私はファルーシャがことらになんともいえない視線を向けていることに気がついた。
恐らく、この会話に入ることができないのだろう。確かに、今私達は彼女を抜きにして少し盛り上がっている。
しかし、ファルーシャに今どう思うなどと聞くことはできない。優しい彼女は、そんなことを聞くと動揺するはずだからだ。
「そういえば、前から気になっていたんだけど……シズカ、あなたってこの世界の身分とかを気にしているの?」
「え?」
そんな私に、アルフィアがそう聞いてきた。その質問の意図が、よくわからない。
ただ、こんな時に彼女が意味のない質問をしてくるだろうか。もしかしたら、これには何か深い意図があるのかもしれない。
「えっと、それはもちろん気にしているけど、それがどうかしたの?」
「なるほど……でも、私にはそんな態度よね?」
「え? それは、アルフィアだったし、まあ友達だからというか……嫌なの?」
「別に、私は構わないわよ。でも、あなた、ファルーシャには丁寧な言葉遣いよね?」
「うん? 確かに、それはそうだけど……あっ」
アルフィアの言葉で、私は彼女の意図に気づく。要するに、彼女はここからファルーシャと会話をするようにいっているのだろう。
「あの、ファルーシャ様、一ついいでしょうか?」
「あ、はい……なんでしょうか?」
「ファルーシャ様にも、二人と同じような感じで話してもいいですか?」
「……はい、もちろんです」
私の言葉に、ファルーシャはゆっくりと頷いた。その顔は、とても嬉しそうである。
考えてみれば、私は彼女にだけ距離を作っていた。だが、それはよくないことである。友人であるなら、差は作るべきではない。
「さて、これであなたの口調は問題ないわね……でも、後二人に関しては、どうかしら?」
「え?」
「メルティナもファルーシャも、誰にでも丁寧な口調でしょう? 偶には、砕けた話し方でもいいんじゃないかしら?」
アルフィアは、そう言って二人に視線を向けた。
メルティナもファルーシャも、それに少し困ったような顔をする。どうやら、二人にとって口調を変えるのは難しいことであるようだ。
「えっと……私は、元からこういう口調ですから」
「私もです。平民であるとかではなく、誰にでもこれというか……」
「まあ、そうなのよね。私にもシズカにも変わらない訳だし……」
二人の答えに、アルフィアは笑みを浮かべていた。恐らく、わかっていていったのだろう。その表情が、それを物語っている。
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