103.怖い視線
「……やっぱり帰ってもいいかしら?」
「え?」
「なんというか、ここにこれ以上いても無駄な気がするし……」
そこで、アルフィアが私にそのようなことを言ってきた。
彼女は微妙な表情をしている。その視線は、メルティナの方に向いている。やはり、彼女がいると気まずいのだろうか。
「アルフィア様……あのですね」
「うっ……」
そんなアルフィアに対して、メルティナはゆっくりと視線を向けた。その視線には、なんだか含みがある。
ただ、それはなんだか変だ。彼女の視線は、何故か少し怖いのである。
「メルティナ、あなたね……こんな時に、あんなことは言わないでよね?」
「……ああ、すみません。つい、いつのも癖で」
「うん?」
アルフィアとメルティナの会話に、私は違和感を覚えた。
それは、ファルーシャも同じようだ。彼女も、きょとんとしている。
私とファルーシャは顔を見合わせた後、アルフィアとメルティナを交互に見た。すると、二人は少し気まずそうな笑みを浮かべる。
「その……シズカさんには秘密にしていたんですけど、私はアルフィア様と約束を交わしていたのです」
「約束?」
「ええ、その……私は、あなただった訳じゃない。それが、私に戻った。ということは、色々と不都合があるでしょう」
「不都合?」
アルフィアの言葉に、私達は首を傾げた。彼女が言っている不都合というものが、どういうものなのかわからなかったからだ。
「昨日までシズカだったのが、私になったら皆変に思うでしょう。ほら、あなたと私では性格が違う訳だし……」
「え? ああ、確かにそれはそうかもしれないね」
「だから、メルティナに頼んでおいたのよ。もしも、私が変なことを言ったら止めて欲しいと……私、性格が悪いから、あなたがどういう感じに振る舞っていたのか、想像できないし……」
「そっか……」
どうやら、アルフィアは私を演じていたようである。確かに、急に性格が変わったら、クラスの皆は変に思うかもしれない。そこから、色々と秘密にしなければならないことがばれるというのは、不都合だろう。
それで、前の私をよく知っているメルティナに頼んだ。その流れは、理解できる。
しかし、アルフィアのうろたえっぷりはそれだけだと思えない。
「頼んだのは、私だったんだけど……メルティナ、滅茶苦茶怖いのよね」
「怖い?」
「ええ、彼女、私が変なことを言うと鋭い視線で睨んでくるのよ。迫力があり過ぎて、震えるというか……」
メルティナの視線が余程怖いのか、アルフィアは震えていた。
なんとなく、それは理解できる。色々と乗り越えた今の彼女には気迫があるはずだ。
「シズカさん?」
「あっ……」
「ほらね……」
私の心中を察したのか、彼女はその怖い視線を向けてきた。否定するつもりなのかもしれないが、それでは逆効果である。
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