130.例え悲しくても

 私達は、ネルメアとオルディネスを見送ってから、集まっていた。

 決着としては呆気ないように思えたが、彼女はこの世界から消え去った。もうこれ以上、暗黒の魔女が悪事を働くことはないのだ。


「これで……終わったんですね?」

「うん、終わったんだよ」


 メルティナは、とても感慨深そうに呟いていた。

 彼女によって、この世界にネルメアの魂が存在しないことは探索済みだ。つまり、本当に彼女との戦いは終わったのである。

 メルティナにとっては、長きに渡る因縁だ。時が巻き戻る前から、ネルメアは優れた魔力を持つ彼女を狙っていた。本当に、長い戦いだっただろう。そんな風になるのも、当たり前である。


「結局の所、彼女は夫を失った悲しみによって、狂気に取り憑かれていたということなのでしょうか?」

「そうなのかもしれません。オルディネスの様子を見ていると、そう考える方が自然なような気がします」


 バルクド様は、剣をしまいながらメルティナとそんな会話を交わしていた。

 ちなみに、彼が戦っていたゴーレムも既に動きを止めている。ネルメアが戦意を喪失したくらいから、そちらのゴーレムも動かなくなっていたのだ。


「愛する者を失った悲しみか……そう考えると、彼女にも同情できる部分があったということか」

「まあ、それで人に危害を加えていいことにはならないだろうけどね……」

「そうだな……だが、一歩間違えば、俺やキャロム君だって、彼女のようになるかもしれないのだぞ? 自分の大切な者を失うというのは、辛いことだ」

「そうだね……」


 キャロムとドルキンスは、そのような会話を交わしていた。

 確かに、ネルメアにも同情できる面はあったのかもしれない。

 だが、それで彼女の罪が許されるという訳ではないだろう。夫を失った悲しみを考慮しても、彼女はたくさんの人の人生を狂わせすぎたのだ。


「ドルキンス、お前の言っていることがわからない訳ではない。だが、今お前の目の前にあの女のせいで人生を狂わされた者達がいることを忘れるな」

「む……それもそうだな。ファルーシャ嬢、アルフィア嬢、すまなかったな……」

「別に私には謝らなくていいわよ。私の場合は、自業自得な面もあるし……」

「私も気にしていません。ドルキンス様の言っていることも理解できますから……」


 ディゾール様の注意で、ドルキンスは目の前にいたファルーシャとアルフィアに謝った。

 二人は、暗黒の魔女によって人生を多大に狂わされた。体を奪われたり、魂をバラバラにされたりしたのだ。そういう事情がある以上、ネルメアを許してはいけないのだ。


「……まあ、あいつももう消え去ったんだ。これ以上、恨み言を言っても仕方はないんだろうな」


 最後にリオーブは、ゆっくりとそう呟いた。

 こうして、私達は暗黒の魔女との戦いを完全に終わらせたのだった。

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